平和な日常を望む【私】の物語。「錬成術士って何の係?」

 やっと終わった。私はへなへなとその場にへたり込む。コーデルさんから預かった魔剣シルフィードを握った私の手はすっかり汗ばんでいた。

「ありがとう、真綾。」

すっきりとした表情で手を差し伸べる奏だが、その笑顔に少しイラッとした私は剣を杖代わりに自分で立ち上がった。


 一方、リアム君たちはトニーさんに抗議していた。

「貴様を呼んだのはこの私だ。我々に協力しろ。」

すごい剣幕でまくし立てるがトニーさんは我関せず、と言った表情だ。


「OKOK、きみたちの言いたいことは解った。だが彼(奏)の協力無しであの怪物を退けることなんて出来なかっただろ?⋯⋯奏に渡したいものはもう無いから、きみたちの話を聞いてあげなくはないよ。」

トニーさんはそのままカフェテリアの方へと連れて行かれていった。


 いいの?私が聞くと奏は笑った。

「ああ。『あの日』受け取るはずのものを今日受け取っただけの話だ。⋯⋯あいつのことだ。そのうち家の方に顔くらい出すだろう。」

 お屋敷に帰り着くと奏はカプセルをコーデルさんに渡して、複製と改良を指示していた。


 で、錬成術士ってどんな人?奏によると魔法具マジックアイテムを作る人のことだそうだ。すべての並行世界はエーテルという霊気で満たされていて、それを物質に変換するのが魔法だそうである。魔術士や治療術士は直接変換して攻撃や治療を行うのだ。正確にいうと神はエーテルを物質に変換して創造を行うため、被造物ひぞうぶつが神の意図しない目的で創造行為を行うことを「魔法」と呼ぶのだ。英語表現では「魔法マジック」というより「非合法イリーガル」に近いんだそうだ。


 一方、エーテルが自然に物質に取り込まれることがある。それが金属に宿れば魔鉱石になって武器や防具の材料になる。木や草に宿れば薬草などの材料になる。そして、「賢者の石」という触媒を使ってエーテルを任意の物質に染み込ませることもできるのだ。


 その技巧を駆使してアイテムを作り出すのが錬成士である。トニーさんはそのチート能力を持っており、魔王を倒す旅の終盤は、パーメンはほぼトニーさんの作った武器防具を使っていたそうである。


 じゃあ、トニーさんがリアム君たちに凄い武器を作ってあげたらどうなるの?

奏は頭をかいて苦笑する。

「それは困るかなあ。だからまず最初に『乙女のエキス』を寄越してきたんだろうな。あいつなりに筋を通したつもりなんだろうね。」

 で、『乙女のエキス』って何よ?すごく卑猥なネーミングなんだけど。

「要するに『秘密でいっぱい』ってことだろ。トニー風に言うとね。」

でもお屋敷の誰もがその正体を知っているぽかった。私がその意味を知るのは少し先のことになるんだけどね。


 それよりも翌日の学校で思わぬ事態が待っていたんだ。

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