第6章:錬成術師【巨匠】が魔王とメイドの日常に「非」を付ける。
目立たぬ日常が欲しい【俺】の物語。よりにもよって⋯⋯。
トニー・ジラルディーノ。剣士兼錬成術士。剣の腕も錬成術の腕も達人クラス。よって「
そして、生粋の「自由恋愛主義者かつ恋愛至上主義者」。美しければ同性だろうと人外だろうと愛せる男である。かつて異世界で俺とパーティーを組んだメンバーである。
「よう、久しぶりだな、奏。マーヤが亡くなった日以来か。すっかり覇気の無い顔つきになっちまったな。」
悪いか?こちらは今取り込み中なんだがな。しかし、トニーは意に介さない。
「悪いに決まっているだろう。なぜならお前は今、恋をしていないからだ。」
なあ、トニー、今すごく俺カッコいいこと言ったって思ったろ?でもトニー、後ろ後ろ!
「んあ?」
間の抜けた声で背中の大剣を一気に抜くとカルヴァドスの斬撃を受け止めた。
「悪ィ。ん?お前ウラネシア大陸のカルちゃんじゃないの?そうそう、この間はお嬢さんにお世話になりまして。情熱的な夜をありがとうとお伝えください。」
おいトニー、まさかまた魔王の娘に手ェ出したんかっ!?
「麗しい女性に声をかけないなんて俺は人生を無駄遣いしたくないんでね。これがほんとの『魔王対間男』ってやつだな。」
上手いこと言ったつもりかもしれんが、そのネタさぁ、その昔ザムシャハークの城でもやったよな?
「そう。『天丼』ってやつさ。」
いやいや、天丼てのはお笑いで言う一度ウケたネタを「冷めない内に」もう一本、というわけだが、ずいぶんと冷え切ったころに出してくれるじゃないの。
「と、いうことでお前に土産だ、とっておけ。⋯⋯いや、今が使い時だな。」
やつが怪しいカプセルを渡す。なにこれ?
「『乙女のエキス』を濃縮して錬成した。お前こういうのが好きそうだから全部やるよ。」
「乙女のエキス」とかいやらしい言い方はやめてくれ。そう、真実を敵の目前でさらすわけにはいかないとしても。ほら、真綾が俺を心底侮蔑した目で見ているじゃないか。これに快感を覚えるほど俺はまだデキた人間ではない。
これは魔王を斃した後、トニーがマーヤから採血し、その成分を錬成したものだ。服用すると身体に劇的な変化を感じる。魔王の力にブーストされた勇者の力が加わる。
「どこを見ておる?そちの相手は余であろう。」
痺れを切らしたカルヴァドスが魔法を放つ。渾身の一撃だったのだろう。
しかし、俺が簡単にそれを受け止め投げ返すとその表情は一変した。
「ば、馬鹿な。あり得ぬ。」
焦燥する敵に俺は撤退を勧める。それでもなおいきりたつカルヴァドスにトニーが言った。
「あんた今日は本調子じゃ無いだろう?いつでもこいつはお前の相手をするだろうから、またにしようぜ。」
「そうであるか。であるからにして致し方なし。今日のところはこれくらいにしておくとしよう。」
カルヴァドスはそそくさと召喚された魔法陣に再び沈んで行った。「勇者」とは違い、魔王たる者、退き時はわきまえている。
「おい、貴様。」
事が終わってようやくリアムがこちらに近づいて来た。
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