島国に来た【戦士】の物語。巨匠を名乗る男。

「全く歯が立たない」。


 思えば戦闘の訓練漬けの毎日だった。私の子ども時代は全てそれに捧げられた。祖国と誇り高き秩序を守る騎士。まるで男の子向けのコミック誌カートゥーンの世界の住人みたいだ。


 おかげで普通の軍人相手なら格闘戦術でも負けないくらい強くなった。先祖から受け継いだ魔法具はダガーのような短い剣。そして加速魔法が施された鎖帷子チェーンメイル。悪魔でも怪獣でも倒せる、そんな自信があった。


 しかし、呆気なくその自負は崩壊する。魔王の魔法の威力は私の魔法具程度では簡単に撃ち抜かれてしまうほど大きな差があったのだ。そして今回召喚した「勇者」。やつはいとも簡単に私たちを打ち倒す。そして倒れた私たちには目もくれず魔王の元へと向かった。屈辱的な敗北。今までしてきた努力を完全否定され、絶望に打ちのめされるかと思いきや、少しホッとしている自分がいた。ステラが泣きながら私たちに回復魔法を施していた。


 回復を果たしたリアムが立ち上がる。

「我々はやつの後を追わねばならない。俺たちの後始末を魔王にさせたらとんだ恥さらしだ。」

 そこにノアが忠告する。

「しかし、どちらかが倒れるか相討ちでもしてくれた方が俺たちの手間が省けるだろう。」

うん、確かにそうだよね。しかしリアムは首を横に振った。

「それもいいだろう。しかし、どちらにせよあの魔王の力を奪ったら、あの怪物が魔王になりもっと深刻な問題になるだけだ。俺たちにあの怪物2頭分をまとめて相手する力量があるか?なら魔王に協力してリスクを確実に減らすしか方法は無いのだ。」


 そういうと彼は校庭へと向かう。

「坊っちゃま、お供いたします。」

お付きの術士たちが追いすがるがリアムはそれを制した。

「お前たちは召喚の準備をしろ。指示は後ほど与える。」


 校庭は怪物が出した風と雲でもうもうとしている。ちなみにテューポーンは「台風」の語源の一つとも言われているだけあって嵐を操る力があるのだろう。


 そして意外な光景が待っていた。リアムが魔王に教えを請うたのだ。自分たちに足りないものは何かと。


「錬成術士だ。」


真面目なのか魔王も答える。そして、その答えの元に召喚が行われる。怪物と魔王が激しい魔法攻撃の鍔迫り合いを演じる横で、「彼」は現れた。


「おい、ここって日本のハイスクールか?俺、アニメでしか見たことないんだがな。」

白人、恐らくヨーロッパ人だが流暢な日本語を操っている。端正な顔立ちに自信を漲らせいる。恐らく我々より少し年長なのだろう。

「こりゃJKと愛を育め、という神の思し召しか?」

ただ、色々とセリフが残念ではある。せっかくのハンサムが台無しだ。


「お前が錬成術士か?」

リアムの問いに男はこう答えた。

「ああ。ただし俺はただの錬成術士とはちょっと違ってね。宮廷錬成術トニー・ジラルディーノ。『巨匠マエストロ』と呼んでくれて構わないさ。」

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