島国に来た【賢者】の物語。それは魔王だ。

 なんてデカさだ。俺たちが呼んだ「勇者」はおそらく高さだけで3mほどはあるだろう。

 「貴様が勇者か?名を名乗るがよい。」

リアムが大上段から問う。いやいや、どう見ても勇者ではなくドラゴンだ。


「我が名はカルヴァドス。誇り高き魔竜テューポーン族の末裔だ。余を呼んだのはそちらか?」

今度は言葉が通じるようだ。しかしあまりに恐ろしいドラゴンの風貌に俺は息を呑む。


「その通りだ。魔王を倒すためお前を呼んだ。俺に従え。」

ところがリアムはなに一つ恐れることなく言ってのける。相変わらずの鉄の心臓だ。だからこそ「キャプテン」を名乗っているのだ。しかしドラゴンは笑った。


「そうだな。強力な魔力に惹かれて来て見たが、その主はお前たちではなくその『魔王』とやらのもののようだな。そちらには用はない。余にその魔力と身体を捧げるがいい。そちらには我が血肉の一部になるという栄誉を与えよう。」


 ん……なんだか話がおかしな方向に傾きかけているが。おいリアム、こいつ害は無いのか?リアムが聖剣ジャスティス・フォースを構える。

「どうやらこいつは俺たちを主人とは認めぬようだ。処分する。」


いや、そんなこと言ったって昨日までのゴブリンやオークとはワケが違うぞ。

「総員、戦闘用意!」

くそ、結局こうなるのか。サポートメンバーに結界を張らせる。先日のバーベキューでステラが結界を忘れたことの反省から術者を集めたのだ。


「ねえ、なんかあの勇者さん怖いねぇ。」

ステラが間延びした声で言う。ステラ、魔銃でリアムを援護。クロエ、敵を撹乱!

了解Got it!」


 しかし、ドラゴンはビクともしない。魔弾は弾かれ、クロエの攻撃も翼に阻まれる。俺の「正義の鎖チェーンオブジャスティス」もやつを拘束できない。

正義の一撃ジャッジメント!」

リアムの一撃も効かない。あの魔王にすら効いたのに。


 今度はステラが皆に補助ステータスアップ魔法をかけ再度挑む。しかし、効かない。

なんなのだ、この強さは!?


 ドラゴンが再び翼を広げる。

「そちらの力量はすでに見切った。今度はこちらの番だ。」

空気が動く。風が起き、ドラゴンの周りに、いや、周囲の結界に雲のようなものがかかる。


 ドラゴンが吼えるとおびただしい数の電撃が走る。それは結界を張るスタッフたちをなぎ倒した。結界は消え、その雲は学校の敷地を覆い尽くす。生暖かい風が吹くとドンという衝撃波が俺たちを襲う。なんとか避けたが頬をかすめ皮膚を切り裂く。


 やばい、これはやばいやつだ。このままでは俺たちは死ぬ、間違いなく。


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