上位カーストな【私】の物語。「土属性魔法って……。」

 奏、授業に遅れるよ。


 そう言って振り向くとステラさんが奏と手を繋いでいる。ちょ……っとなにしてんの?


  「構内に結界を張っているので敷地からは出れないんですけど、逃げた小鬼ゴブリンはその⋯⋯オスだから女の子が襲われるかもなの。」

奏の顔が真顔になる。

「早くそれを言ってくれないと。」

奏は荷物を投げ捨てると、目を瞑り眉間に指を当て探査サーチと唱える。

「意外に近いな。」


 そこにいきなり汚い緑色の肌をした「ゴブリン」が現れた。初めて見たけど確かにゴブリンね、としか言い様がないキモチ悪い顔をしている。二足歩行だが頭は禿散らかし、大きく空いた口から臭い息をはく。上半身はボロボロの布をボレロのようにまとい、下半身は剥き出しで股間の小さな生殖器が欲情を露わにしていた。

 

 そしてゴブリンはいきなり華の両足につかみかかる。華は悲鳴をあげて倒れこむと足をばたつかせて抵抗する。

「シルフィード!」

 私はコーデルさんから預かった魔剣をぬくも、ゴブリンが華の脚に絡みついて狙いどころを見失っていた。


「下種が!」

奏がゴブリンの首筋をつかむ。そのまま絞めあげるとゴブリンは華から手を離すとその身体は宙にうく。ゴブリンは抵抗して奏の腕に爪をたてた。


奏はそのまま校舎の壁までゴブリンを連れていく。

「鬼おろし!」

奏の呪文で校舎の壁全体が「おろし金」のようになる。奏はゴブリンの顔を壁に押し付けると何度もすりおろす。ゴリゴリという皮膚と骨が削られる酷い音をたてて、ヘドロ色の体液が壁を伝って下へしたたり落ちて行く。


 ゴブリンは断末魔の声を上げ、やがて両腕がだらりと下がった。奏は再び呪文を唱え、さらに壁の棘を鋭く立たせると、ゴブリンをたたきつけた。パン、という音がしてゴブリンの胴体はぺしゃんこになる。……奏、あんたやっぱり魔王だわ。てか土属性魔法ってえぐすぎる。


「華ちゃん大丈夫?」

安否を確認する奏に華はここぞとばかりに抱き着いた。

「奏くん、怖かったよー。」

「よしよし、無事でよかった。」

ウソ泣きしつつ奏にしなだれかかる華にもちょっとイラっとしたけど、華を抱きとめて頭を撫でるなんて、いかにも女を抱き馴れています、って感じの奏の仕草にもイラっとくる。


「あ、あの、ありがとうございました。なにも手伝いもせずにごめんさい。」

ステラさんが何度も奏に頭を下げた。

「気にするな。それなら後片付けを頼んでもいいかな?ステラ。」

爽やかな笑顔を見せる奏。

「真綾、シルフィード、しまった方が良くない?」

あ、忘れてた。私が慌てて魔剣をしまうと奏は私の荷物もついでに拾ってくれた。


「授業とっくに始まってるな。」

ぼやく奏にステラが声をかける。

 「あの、ま……奏さん、今度私に埋め合わせをさせてください。」

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