再び残された【母】の物語。魔王通信。

 あんまりだ。死んだ我が子が帰って来たというのにまた離れ離れにならなければならないなんて。


 私は怒りと失望を抑えられなかった。私の落胆をそれほど意に介さない奏にも腹が立った。しかし、奏は私たちを旅行に連れて行ってくれた。急に休みを取るのは大変だったけど。ただ年末公演は「第九」がメインなのでハープ奏者は割と暇なのだ。


 旅行の最初の日は家族でアルバムを見た。二人の子供たちの小さい頃の話をいっぱいした。2日目に奏の話を聞いた。まるで信じられない話だったけど。一緒に魔法で空を飛んだ。奏が魔法を使うのを私たちに見せたのはこれが初めてだった。


 まるでドローンの空撮の映像を生で見ているかのようだった。奏の手の温もりが我が子が帰って来てくれたことの何よりの証だった。


 確かに、こんな力を持っていたら、世界中の様々な機関や政府に狙われてもおかしくはない。私たちを誘拐して奏を脅すかもしれない。そう夫が言うと奏は寂しそうに、そして理解してもらえたことが嬉しそうに微笑んだ。

「そうなんだ。たとえそんなことをする人間でも、あまり痛めつけたくは無いんだよ。もう俺は人間をアリを殺すよりも簡単に殺せちゃうんだ。」


 家に帰った翌日。奏は家を出る。涙ぐむ私を抱きしめてくれた。

「母さん。俺、東京に住むんだ。だからそんなに遠くじゃないよ。会えないけど、俺は間違いなく元気でいるから安心して。今までありがとう。これまで俺を生んで、育ててくれて。元気でいてね。」


 私は再び主を失った奏の部屋に入る。そこは何も変わっていない。あの日のままだ。結局奏が帰って来てこの部屋を使ったのはたったの2日だった。多分もう少しこのままにしておこうとおもう。


 それから半年近く経った。本来なら奏の一周忌のはずだ。そこに内閣府の職員が我が家を訪ねてきた。奏と真綾ちゃんの生活の様子を我が家と三橋家にブログ記事として配信してくれるというのだ。


「ええ。端末の数は限らせていただきますけど。これですね。えー、『魔王通信』という記事になります。」

 なんと写真入りの記事で暮らしの様子が紹介されるのだ。私たちの方からはコメントはつけられず、「いいね」だけが押せる。それでも私は嬉しい。


 早速記事を読む。ブログを書いているのは主に執事さん達だという。いやいやずいぶんと素敵なところに住んでいるのね。私は早速記事に「いいね」を押した。



 

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