島国に来た【聖女】の物語。魔王さんの先制攻撃。

 私はステラ・リュパン。リュパン家はフランスからの亡命貴族の家柄だ。黒色火薬の生産で財を成し、現在でも世界のバイオ、ケミカル業界で圧倒的な利益を上げる企業連合の株主だ。それも始祖のサミュエルが異世界から持ち帰った知識をもとにしている。


 民衆に「死の商人」と後ろ指をさされている家だけど、皮肉なことに勇者の印が現れる子は「治療士」の魔法使いなのである。


 私に「聖女」のしるしが現れたのは3歳の頃だった。それから家で個人授業を受けながら治療魔法の訓練をずっと続けてきた。だから学校にも通ったことがなく、実はこの日本の高校が初めての学校生活なのだ。


 もの凄い数のグリルね。私が感心して言うと

「言い出しっぺは君だろ?ステラ。」

ノアに呆れられちゃった。えへへ。横田基地の一角にずらりと並べられたグリル、そして多勢の兵隊さんたちが肉をじっくりと焼いている。


 アニメで観た日本のバーベキューは串に刺した肉や野菜を焼いているけどアメリカのはずいぶんと違う。大きな肉の塊をじっくりと低温で炙り焼くのだ。だから夕方から始まるとしても準備は朝から始まるんだよ。


 味付けはバーベキューソース。家によって違う。だから今回は4人の家の4種類のレシピだ。子供の頃、よく家の庭でパパが張り切っていたのを思い出すなぁ。


 今回はノアが張り切って指揮している。リアムは魔王を迎え撃つ準備をクロエとしていた。

 

「こんにちは。」

あ、魔王さんだ。こんにちは。約束は5時だから、まだ3時間ありますよ。

「邪魔だてするか魔王!」

ノアの手に杖が現れる。


「慌てるな。差し入れを持ってきただけだ。マリコ!」

魔王さんが合図を送ると魔族の皆さんが次々とテーブルや椅子を持って現れる。凄い。カラフルで可愛い。そして、花を寄せ植えした鉢を設置していく。


「どうせ軍事基地の設備では無骨なものしか無いと思ってね。椿姫!」

 さらにメイド服を着た女魔族さんたちが手にバスケットを持って現れる。おにぎりやサンドイッチ、切り分けた肉を挟んだり包んだりするためのバンズやタコスを持ってきてくれたのだ。そして、コーヒーや紅茶といった飲み物も。


「こう言うのは魔王軍うちの方がアメリカ軍より一日の長があるからな。」

リアムはまさかこのまま魔王軍に居座られたら、という顔をしていたけど、魔王さんは執事さんとメイド長さん以外の部下をあっさりと帰してしまった。


「いやいや、今回はお宅がホストだからね。ゲストはゲストらしくしているさ。」

魔王さんは余裕たっぷりの表情で自前のパラソルの下の席に誂えた椅子に座った。


「くそッ!」

リアムは悔しそうに被っていたキャップを地面にたたきつけたのだ。なんでだろ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る