第5章:下位カーストな【俺】と上位カーストな【私】の物語。

島国に来た【戦士】の物語。不本意だけど。

 私の名はクロエ・ミューロン。なぜか日本という国で女子高生をやっている。


 もっとも理由は簡単明瞭だ。合衆国ステイツのために魔王を倒す。そう、私の先祖たちが築いた国を守るために。


 私たちパーティが互いに初めて出逢った、いや顔合わせされたのは今から少し前、3月も末のパリでのデビュタント・ボウルだった。それは上級階級セレブの若き令息令嬢たちが社交界デビューを果たすための舞踏会である。毎年パリの有名なホテルで行われている。


 今年はアメリカを代表する名家の4人がデビューするとあってかなり注目されていた。ミューロン家のライバルであるロックフォード家のリアム。化学工業や製薬業のコンツェルンを率いるリュパン家のステラ、そして鉄道、海運に強いミリガン家のノアだ。


 リアムは私と踊りながらも一言も発しない。不機嫌極まりないと言った視線を私にぶつけてくる。まるでお伽話みたいね。私が皮肉を込めて言うと彼は初めて口角を上げた。


「この舞踏会がか?」

いいえ、勇者のパーティーとしてあなたと共に魔王と戦うことが。それも日本で。

「ド三流のファンタジーだ。映画ハリウッドだったら企画すら通らん。」

リアムは吐き捨てるように言う。私は苦笑を浮かべてフォローする。

「そうね。日本は漫画とアニメの国ですもの。」


パートナーチェンジを繰り返すと今度はノアに当たる。

「よろしく。クロエと呼んでも良いかな?」

ええ。こちらこそ、ノア。まるでボディビルダーのような逞しい体つきをしている。彼が「魔法使い」というのが信じ難い。

「ずいぶんと細身の戦士様だな。」


そうね。私の能力はスピードに特化されているから。逆にあなたこそそこまで筋肉をつける必要があるのかしら?

「肉体の強靭さは精神の強さに通じる。揺るぎない自信は揺るぎない肉体に宿るものさ。」

なんたる脳筋⋯⋯。あなたは日本に行くのはお嫌でなくて?

「これもトレーニングの一環さ。強さを求めて山に篭るのと同じだろう。」


 ダンスから戻るとステラに紹介された。ドレス姿はいかにもお嬢様って感じだ。

「良かった。パーティに女の子がもう一人いて良かったよー。」

可憐で屈託のない笑顔。あなた、魔王と戦うのって怖くないの?

「うーん。私、治療士ヒーラー だから。治療と結界の方は任せてね。戦う方は基本的にみんなに任せたから。」

案外、嫌なことはのらりくらりとかわす強かなタイプかも。


歳は全員同じ16歳。先祖から受け継いだ勇者の力を発揮する時が来たのだ。そう、とても不本意なことなのだけど。

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