陽キャ転入生な【私】の物語。「呼んだ?」

 「そう言えば真綾の髪留めバレッタってスゴい可愛いよね。」

カラオケボックスのルームで、隣に座った華が私の髪留めを指でなぞる。

「ブランドものなの?」

紗栄子がやや興味ありそうに尋ねる。私は首を横に振り、形見だよ、って答えた。

「うーわ、話し重っ!……って誰の?」

私は言葉に詰まる。最初、私にとってもすごく「重く」て、身に付けるつもりなんかなかった。


 それから、たびたびマーヤさんの夢を見るようになった。それは髪留めの魔石に込められた彼女の「残留思念」だった。ただ見えるシーンは断片的で、しかも時系列順ではないので物語ストーリーとしては取り留めのないものだ。奏と過ごした日々の一コマ一コマ。そこから彼女が奏を思う気持ちと愛する気持ちがひしひしと伝わって来る。


 マーヤ視点だからなのだろうか。奏の表情はいつも優しく、彼女を見つめる視線には気遣いと愛情、そして何よりも信頼が込められている。私が見たことのない彼の眼。今のどことなく冷めた目つきとはまったく温度が異なる。私は彼のその眼を見るたび、マーヤに嫉妬する。奏が私を見る目には気遣う目だけだ。そう、望まぬ形で自分に差し出された私の境遇を哀れんだものだ。信頼されているわけではないし、彼の愛情は私の容貌かおというフィルターを通して今も亡き彼女に注がれている。だから私は奏に心を開く気はない。


 「真綾さん、私ね。いつかきっと殺されるだろう、って思ってた。だって、私の血には彼を不屈の勇者にするパワーがあるの。だからこの髪留めに私の全ての記憶を魔力で保管したの。この気持ちをいつかあの人に伝えてもらうために。この封印された記憶を解き放てるのは真綾さん、貴女しかいないから。」


 私は全力で拒絶する。私と貴女は全く別個の存在。顔が似てるからと言って同じ気持ちを奏に対して抱くわけがないのだ。私は貴女の代わりなんかじゃない。


 私はカラオケで歌うのが好きではない。むしろ適当にお菓子をつまみながらその場にいる方が好きなのだ。みんなが気持ち良く歌っているのを見守る方がいい。不意に、マーヤさんの思念が私を呼んだ。私はトイレ、とだけ伝えてルームの外へ出る。夢以外で滅多に出て来ることはないのに。


 「今、あの人が一人きりで戦っているの。だからお願い、そばに行ってあげて。」

私、戦闘で役に立つわけないじゃないですか。間違いなくただの足手まとい。

「違うの。彼の魂が仲間を求めているの。今の彼の傍らに立つ資格があるのは貴女だけなの。お願い、奏を助けて!!」


どうやって?だいたいどこで戦っているのよ。その時、私の身体がふっと浮かんだような気がした。次の瞬間、私の目の前には片膝をついて大きく肩で息をする奏と、向こう側に立つ4人の勇者の姿があった。私は奏に後ろから声をかけた。


「ねえ、私のこと呼んだ?」

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