島国に来た【勇者】の物語。

 私が光の聖剣「ジャスティス・フォース」を父上から継いだのは去年のことだ。我がロックフォード家は異世界で勇者を務めた始祖ジョンから代々勇者の称号と聖剣を受け継いで来たのだ。


 私は誇らしい伝統に名を連ねるとあって心が踊った。来年9月にはオックスフォード大学への留学も決まっていた。そこには俺の婚約者マリー・ベルも待っている。輝かしい未来へ向けて私は順風満帆な船出をした気分に浸ったものだ。


 ところが突然、父上に告げられたのはロンドン留学の延期と、極東の島国日本への留学だった。なぜです?私は食い下がった。何を悲しくて黄色い猿の国ごとき辺境へ行かねばならぬのだ。


 「リアム。緊急事態だ。日本に魔王が現れたのだ。ウインチェスター、説明を。」

我が家に長年勤める執事のウインチェスターが説明してくれる。


 一人の高校生が異世界から魔王として帰還したという。その力は現代の戦略兵器をはるかに凌ぎ、このままではアメリカの覇権が危ういという。

「ネイビー・シールズが赤子の手をひねるがごとく退けられました。やはり、魔王を倒すには勇者が必要なのです。あなた様をおいてほかなりませぬ。」


そんなことは私にとってはどうでもいいことだ。私が不満なのはなぜ私が自ら剣を取らねばならないのか、ということだ。まるで肉体労働者ブルーカラーのようではないか。我が製鉄会社の底辺どものようになぜ私が働かねばならぬのだ。


「お前なら1年くらいでなんとかできるだろう。観光だと思って行くがいい。」

父上は他人事のように言う。そう、私は父にとっては労働者に過ぎないのだ。父上にとって政治力も財も無い私は汗と油汚れにまみれる卑しい肉体労働者の一人に過ぎない。


 「魔王はその力を譲り渡せばその存在は消滅いたします。つまり、リアム様がその力を奪えば、史上最強の勇者と相成られることでございましょう。」

父上よりもか?俺の問いに執事は不思議そうな顔をしながら

「さようでございます。この惑星にロックフォードに仇なす者などいなくなるでしょう。」

 そのためには「猿の惑星jap」に行けというのだな。承りました。俺はそう告げると父上の執務室を後にした。


 いいだろう。魔王のすべての力を奪う。そして、私に恥をかかせた父上を斃す。

そしておもい知らせてやるぞ魔王。お前が奪った俺の1年はお前の残り一生よりも貴重であることをな。この勇者リアムを虚仮にしたことを悔いるがいい。


 

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