陽キャ転入生な【私】の物語。「ライオンの飼育係です。」

 モテ期が来た。


 私は男子に異性として認識されるのがとても苦手だ。だからお屋敷に来るまでスカートなんてプライベートで履いたことなんかなかった。もっともここのメイド服はスカートでも露出がほとんど無いロングスカートなので私は嫌いじゃない。


「ミッチーって高山の家で働いているなんだってね。」

生徒会執行部のもてなしによって誤解が解け、男子が何人か私に告白してきた。

「俺と付き合ってくれない?」

ごめんなさい。私はにべもなく断る。


 「ミッチーってメイド喫茶でバイトしてるってホント? 『萌え萌えキュン♡』ってやってみてよ。」

 私は男子からはなぜか名字の三橋をもじった「ミッチー」と呼ばれている。違うよ。普通にお屋敷のメイドだよ。私が否定すると次は

「じゃあ高山と同棲してる、ってホンマ?」

うーむ、聞きたいのはこっちか。いや、使用人のエリアとは完全に生活空間が分かれているから、許可なく行き来なんか出来ない作りだけれど。同じマンションの建物に住んでたら同棲になるわけじゃないでしょ?それと一緒。


 この理屈、解ってくれる人とさらに下衆の勘繰りにはまっていく人に分かれるんだ。どうも私は簡単に身体を許すビッチという噂もあるらしい。奏を金持ちと知って「玉の輿」競争のライバルである私を追い落としたいと勘違いする女子、あるいは私に告白して玉砕した男子が裏で言いふらしているらしい。


 何だかんだで結局私は奏のせいで酷い目に遭っているわけだ。ちょっとムカつくんですけど。私が昇降口で奏を待っていると、柄が悪そうな3年生が男女合わせて5,6人の私を取り囲むように近づく。なんか嫌な空気だ。


「2Dのミッチーでしょ?噂どおりにかわいいねえ。」

あの、どちら様ですか?

「あ、俺たち『カレイドスコープ』ってゴキゲンなサークルやってんだけどさ。きみみたいにレベル高い女子とかに声かけてんだ。どう?このあとみんなでミッチーの歓迎会なんてセッティングしてんだけどさ。来ない?」


あ、結構です。これからバイトですので。

「いやいやいや。きみさ、マスコミとか興味ない?そこの杉尾クンとかさ。おやっさんがその関係に顔が利くんだよね。」

いや、興味ないんで。私もはっきりと断っているつもりなんだけどなかなかしつこい。


 業を煮やしたのか女子の一人が聞く。

「なんのバイトだよ?」

私は咄嗟に言ってしまった。

「飼育係です。……猛獣の。」








 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る