新米メイドな【私】の物語。「だが断る!」

 午後からは会議の予定だ。パーラーメイドチームはお茶出しの準備をしなければならないのに、私は椿姫さんの部屋にいる。椿姫さんは私に髪留めバレッタを渡した。なんだろう?銀の台にルビーだろうか。紅く輝く宝石を黒い縁取りで蝶を象ったものだ。


「これは奥様の形見だ。旦那様より私が頂戴した。」

奥様って奏の?椿姫さんは頷く。形見ってことは⋯⋯つまり⋯⋯。

「すでに身罷みまかられた。」

それ死んだ、って意味ですよね。


「奥様の名はマーヤ。貴女と瓜二つの女性でな。その髪留めには奥様の残留思念が残されている。」

⋯⋯やだ怖い。私が慌ててデスクにそれを置こうとすると椿姫さんは私を制する。

「お待ちなさい。それを付けてご覧なさい。そうすれば旦那様が異世界アストリアでどんな暮らしをしていたか理解できるだろう。」

ええっ?なんかいやだ。私は逡巡したけれど、椿姫さんは腕を組んでじっとこちらを見ている。私はしょうがなくそれをつけた。


 すると目の前が暗転する。思わず私はソファに座りこんだ。すると視界が戻るとそこは違う場所になっていた。まるでヴァーチャルリアリティの世界だ。


 ここは「私」の部屋だろうか。落ち着いた雰囲気の部屋で家具や調度はとても凝った作りだ。私は化粧台の姿見を見てびっくりした。私だ!⋯⋯いや、これは私ではない。顔立ちは全く同じだ。しかし肌は透き通るように白く、瞳は真紅だった。髪もプラチナ細工のように真っ白で振り向き加減に見ると、先ほどつけた髪留めが付いている。そして、全く違うのは胸のボリュームだ。少し肩が凝る気がしたのはこのせいか。なんという誇らしい重量感!

 

 すると、鏡の中の「私」が私に語りかける。


「はじめまして。私はマーヤ。貴女が真綾さんですね?本当に私たちそっくりなんですね?みんな、驚いていたでしょ?」

確かにムッシュさんとマリコさんはびっくりしてたな。なるほどそう言うわけか。


「ほんとはね、私の方が貴女に似ているから、貴女の名前を私が貰ったのよ。貴女がこれを見ているってことは、奏は故郷に帰ってしまったのね。でも良かった。貴女がここに来てくれて。私はもう奏を支えてあげることができないの。だからお願い!私の代わりに彼を支えてあげてほしいの。」


 いやいや、そんな気は毛頭ありませんし。私は私で貴女とは違う。奏は友達だったけど、今は私の「雇用主」に過ぎないのだ。⋯⋯命の恩人だったが、私の平凡な日常を奪った時点でチャラである。



 

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