魔王な【俺】の物語。魔王のお仕事。

 このお屋敷には和風邸宅である別館が付属しており、俺はそこで魔王の仕事をしている。配下の四天王のうち、二人は異世界に残し、魔王城の管理と魔王軍を任せている。セバスチャンと椿姫はこちらで俺を補佐してもらっているのだ。


 「本日はマリコにご下命下された調査の中間報告があるとのことです。」

あーあ。ゲーム三昧だった日々が懐かしい。パーラーメイドたちの指示のもとでメイドたちがテキパキと仕事をしていた。


 マリコは俺の前にひざまづく。型式通りに説明を促すと報告を始めた。5大財閥の初代当主たちはかつて同じパーティのメンバーだったという。勇者の子孫のロックフォード家。魔法使いの子孫であるミリガン家、戦士の子孫であるミューロン家、治療士ヒーラー の子孫であるリュパン家、アサシンの子孫であるヴァンダムの5つである。当主には代々、その先祖の力が受け継がれているという。ただ、代を重ねるごとに弱くなっているそうだが。


 「つまり、陛下は勇者の世界に足を踏み入れた魔王ということになります。

間違いなく彼らは魔王討伐を志すことでしょう。異世界からの転生者を迎え入れる可能性もあります。」

 しかし、こんなに世界は広いのだから俺の存在くらい放っておけばいいのに。


「そうもいかないでしょう。日本政府は陛下と対等な同盟者となる道を選びました。世界は勇者と魔王の陣営に分かたれる可能性があります。」

やれやれ、人は権力を持つとどうして敵味方に分かれたがるのか。


「陛下、それは『嫉妬』でございます。」

 椿姫が具申する。そう、嫉妬こそが人類のエネルギーだ。人より強く豊かになりたい。そして認められたい。そのために科学技術を進歩させる。自分を上回る者は倒すか利用する。歴史はその繰り返しだ。やってる方法はどんなに高度になっても人の根っこは変わらないのだ。


 「ご苦労だったマリコ。一度休養を取り英気を養ってからまた調査を続けよ。」

「御意。」

マリコが再びひざまづいて一礼し、退出して今日の業務は終了だ。


「さ、一仕事終わったからお茶にしようか。」

セバスチャンが俺の言葉に反応して胸ポケットのベルを鳴らすとパーラーメイドたちがいっせいにお茶の準備を始める。


 その間、俺はマリコや配下の御庭番たちを労う。これが俺の魔王としての仕事なのだ。


 ただ、俺は「勇者」からのコンタクトが意外に早くやって来るとはまだ予想していなかった。


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