新米メイドな【私】の物語。「なんかムカつく!」

 スタッフ食堂に戻ると淫魔サキュバスたちが私を不思議そうに見る。

「あれ?ワゴンはどうしたの?」

あ、しまった。腹立ち紛れに置いてきてしまった。


「もしかして、朝から旦那様の『一番搾り』?」

羨ましそうに私を見つめる4人。だから、そう言うエロいのじゃないって。私は慌てて取りに戻る。しかし、途中でワゴンを押す椿姫さんに会ってしまった。すみません。私は90度のお辞儀で謝罪してからワゴンを受け取る。


「真綾、それを厨房に返し終わったら管理室キールームに来ること。貴女にお話があります。」

椿姫さんの声はクールすぎて、感情を読み取ることは難しいが、叱られることは間違いない。でも、私は許せなかったんだ。


「それで、貴女は何に対して怒っているのかしら?」


 管理室キールームメイド長ハウスキーパーである椿姫さんの個室だ。私はソファに座ることを勧められ、しかもナナさんがお菓子とお茶を出してくれて驚いた、というか少々恐縮してしまった。


 私はその問いにすぐには答えられなかった。私は奏を恋愛対象として見ていない。だから、日本政府が私がこの屋敷に送り込んだとき、彼に対しては嫌悪感しかなかった。でも、ここで働いている魔族のみんなは奏のことが大好きなのだ。だから、少しずつ奏のことを見直し始めていた。


  それなのに、淫魔サキュバスと夜な夜ないやらしいことをしている。やっぱり不潔な人間なんだ。私の信用を彼が裏切ったのだ。だから私は⋯⋯。考えが頭の中をぐるぐる回って言葉にならない。椿姫さんは机の上に両肘をつき、口元の前で手を組んでこちらをじっと見ている。


 でも私が任された仕事をお座なりにして怒りに任せて途中放棄したことには違いがない。

「すみませんでした。」

私は座ったままもう一度頭を下げる。椿姫さんは言った。


「ええ。あなたが反省していることは理解しているし、旦那様も気になさっておられないわ。では、質問を変えます。あなたは何にイラついているのかしら?

1、大勢の女性を侍らせる旦那様。

2、それを見過ごす我々スタッフ。

3、旦那様のお相手をする淫魔サキュバスたち。

4、こんなところでメイドをしている貴女自身。

どれかしら?」


きっと全部が当てはまる。でも何て言ったらいいのだろう。先に椿姫さんが口を開いた。


「貴女は旦那様を嫌うことで『自分のカタチ』を保とうとしているのではなくて?少なくとも私にはそう見えるわ。午後、貴女に見せたいものがあるわ。昼の休憩が終わったら、またここへいらっしゃい。」








 

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