魔王な【俺】の物語。不機嫌なメイド。
朝か⋯⋯。今日も真綾が来るのかな。楽しみでもあり、憂鬱でもある。
真綾は俺が自分を生贄を望んだと思っているのだろう。自分と俺との間に心の壁を作りなるべく無感情に振る舞おうとしている。
しかし、今日はちょっと様子が違った。ノックもせずに扉が開く。大きなワゴンを押した真綾が入って来る。いつものように挨拶も声もかけることなく、テーブルに黙々と朝食を並べ始めた。
いつもと明らかに違う。俺は何か彼女を怒らせるようなことをしたのだろうか。
一言も声を発しないままテーブルセットと料理を並べ終えると一礼してワゴンの脇に立つ。武道を嗜んでいただけあって、一連の所作はドジっ娘に近いマーヤに比べればはるかに美しい。いつもは憎まれ口の一つも叩くのだが、今日は無言である。そういや、よくマーヤも怒るとだんまりを決め込んでたっけな。
声をかけるのも気が引けたので今日は無言で朝食を済ませようと食べることに注意を集中する。しかし彼女にとって、俺が黙って食べているのも気に入らないようで明かにイライラしている。俺はこちらを睨みつけるような視線を躱すように問いかけた。
「研修はどう?⋯⋯その、
気を遣ったつもりだったのだが、かえってそれが地雷を踏み抜いたっぽい。
真綾の顔に怒気が一気に噴き上がる。
「はあ?あんたこそ女の子たちとよろしくやってるじゃないの。あんたのこと心配してたわたしが馬鹿みたい。勝手にやってればいいじゃない!」
彼女は両拳をギュッと握り締めながら一息に捲し立てるとご主人様の給仕を放棄して部屋を出る。扉が大きな音を立てて閉じられた。あの、この建物はガチの文化財なんで優しくお願いします。
俺が椿姫を呼ぶと、真綾の失態を恐縮したように謝罪したが、別に二人に怒っているわけじゃない。俺は食後のコーヒーが欲しかっただけなのだ。
「恐らく真綾は、旦那様が
椿姫が拳を握り人差し指と中指の間に親指を挟んでグッと前に突き出す。やめなさい。そのジェスチャーはお下品ですよ。
「ちょっとしたジョークです。。彼女へは私の方から説明させていただきます。お任せいただけますか?」
俺は椿姫に一任することにした。そう、怒るということは無関心よりはマシなのかもしれないから。
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