魔王な【俺】の物語。頼もしく、時々ウザくもある押し掛け部下ども。

「お呼びですか、旦那様。」

 セバスチャンになぜ真綾がここに来たのか尋ねる。答えは最悪だった。日本政府が俺の歓心を得るためにご両親に真綾を無理やり差し出させたのだという。それじゃまるで生贄だ。


「真綾を親元に返してやってくれないか?彼女は一人娘なんだ。」

しかし、セバスチャンは首を横に振る。

「いけません。ここはお受けになり、相手の出方を見るべきです。」

日本政府の何を見るんだよ?

「いいえ、戸泉先生はただの使い走りです。彼の背後に見え隠れする、この世界の『勇者』のことですよ。」


 なるほど。先日の海軍特殊部隊ネイビー・シールズの襲撃はアメリカ政府の暴走だと決めてかかってはいけないと。つまり戸泉が言ってたアメリカの財閥、やつらが背後にいると言うわけか。

「彼らの家系の開祖はみな勇者や転生者と聞きます。旦那様が魔王と聞けば“触手”も伸ばそうというもの。」

 いや、勇者が“触手”なんて伸ばしちゃダメでしょう。“食指”だよ。


 俺は当初セバスチャン以外の魔族をこの世界に召喚するつもりはなかった。しかし屋敷の管理を任せていた会社内にスパイがいたのだ。それが襲撃者を招き入れた。


それでセバスチャンは業者との契約を打ち切り、メイド長の椿姫を召喚する。そして椿姫が魔王城からメイド、コック、庭師のスタッフを呼び寄せたのだ。もはや外注アウトソーシングしているのは洗濯くらいである。


 マリコを呼んでくれ。セバスチャンは胸ポケットからベルを取り出すとそれを鳴らす。

「お呼びですか、旦那様。」

現れたのは青いつなぎの作業着オーバーオールに身を包んだ美女だ。オレンジがかった赤毛がブルーによく映える。彼女はマリコ・フォクシー・ナインテイルズ。広大な敷地の庭と屋敷の保全を掌管するチームの長、「庭師長マイスター」だ。


「おいセバ!あたしを呼ぶ時は笛って言ったろ?」

セバスチャンはマリコの抗議をスルーする。九尾の妖狐が“犬”笛で呼ばれる方が屈辱な気がするが。

「マリオ、御前である。」

執事はマリコのオーバーオールを見てわざとボケる。

「マリオ言うな!」


 部下たちの漫才を一頻り堪能してから俺は用件を切り出す。それはアメリカを支配する5つの家についての調査だ。マリコは人懐っこい笑顔を見せる。

「了解です。御庭番ガーデナーズ出動します。」

そう、庭師のチームは魔王軍の諜報部隊で構成されているのである。


 澄ましたドヤ顔で頷いて見せるセバスチャンに少しイラッとしながら、俺はゲームの続きに取り掛かることにした。




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