帰って来た【俺】の物語。平穏な生活の終焉。

 夢を見た。目が覚めるとそこにマーヤがいる。


 アストリア王国では人間と亜人の結婚は認められていない。「血が穢れる」、つまり混血児が増えることを危惧しているのだ。マーヤの母は魔人と竜人のハーフの「竜女メリュジーヌ」で、父は生贄として差し出された人間とエルフのハーフの「ハーフエルフ」だった。


「奏、朝だよ。」

 カーテン越しに朝の柔らかな光が差し込む。せっかく辺境伯として都から離れた田舎で悠々自適の領主ライフを送っているのになぜ早起きせねばならないのだ。

 「王都で解放記念祭だってコーデルさんが言ってたでしょ?」


 そうか、ひさしぶりに仲間に会える。他の行事はさぼっても、この魔王を斃した祝日は自分たちが主役なため行かないわけにはいかない。本来なら宮廷魔導師長たる大賢者ジャスティンがゲート魔法で迎えを寄こすはずだが、魔王になった今、俺は自分でその扉を開けられるのだ。


 俺は馬車に執事のセバスチャンとマーヤを連れて乗り込む。そのままゲートをくぐれば王城だ。しかし、大広間に入ろうとするとセバスチャンとマーヤは入場を断られる。魔族のセバスチャンは仕方ないにしてもマーヤは俺たちのパーティの一員だ。俺は抗議したが受け入れられない。これだから王都は嫌なんだ。


 俺はふてくされてウエイターに差し出されるままに酒を煽る。その後におこる悲劇も知らずに。


そうその日、俺の平穏な生活は終わりを告げたのだ。



「朝だぞ。起きろよ。」

 どこかで聞いたことがある声で俺は目を醒ました。時計に目をやるとまだ午前8時前じゃないか。

 「おい、まだ真夜中じゃないか。」

 最近ゲームのやりすぎで昼夜が逆転している俺が抗議の声をあげながら身を起こすと、そこにいたのは「三橋真綾みつはしまあや」、俺の幼馴染だった。

「あれ、真綾、なんでここにいるの?」


真綾は手に腰を当てたまま不敵な笑みをこぼす。

「あんたどうせ自堕落な生活を送ってるんでしょ?心配だから、見に来てやったんじゃない。感謝しなさいよ。恐怖の大魔王に近づく人間なんていないだろうから話し相手になってあげる。だから時給10万円ちょうだいね。」

「……おいおい、ライオンの飼育係だってそんなにもらってねえわ。」


そうこの日、俺の平穏な生活は終わりを告げたのだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る