差し出された【私】の物語。罠と蜜。その2

 父の会社がピンチだった。市役所から公共工事の指定業者から外され、県庁から業者としての認定を取り消しを通告される。つまり、会社が「お取り潰し」に遭ったのだ。

 裁判をしようにしても門前払いは確実な上、弁護士にも拒否されてしまったのだ。その措置を回避するためには私の「協力」が必須なのだ。


 私が帰宅すると父は珍しくスーツ姿だった。

「会社をたたむことになってね。たぶん、この家も手放すことになると思う。ごめんな、真綾。家が少し狭くなるが、我慢してくれるか?」

嘘でしょ。私を守るため?そのために人生懸けてきた仕事を辞めちゃうの?家も売るの?パパは優しい目で私の頭を撫でた。


「あのな真綾。俺は家族を守るために仕事をしてきた。仕事なんかのために、きみの人生を、そして夢を潰すわけにはいかんのよ。大丈夫だ。お前の進学の費用くらいなら爺ちゃんたちが俺に貸してくれる。なんの心配もいらん。青春は一度しかないし、短いぞ。存分に楽しんでくれ。きみが笑顔でいてくれさえすればパパはなんだって耐えられる。」

 そんなの……。私の方が耐えられるわけないじゃない!そうだ、奏に相談しよう?なんとかしてくれるんじゃない?奏パパに連絡方法を教えてもらってさ。


 パパは首を横に振る。奏パパもママももう、奏とは一切連絡が禁じられているのだという。それが、奏が日本にいられる条件なのだそうだ。


 私は考えた。みんながハッピーになれる方法があるのだろうか?あるとすればそれは一つだけだった。私は名刺の番号に電話した。

「覚悟は決まりましたか?」

ええ。そう答えてから一度深呼吸する。

「ただし、条件があります。」


 そこからが慌ただしかった。まず、パパとママに泣かれた。これがいちばん堪えた。私たちのために自分を犠牲になんかしないで、って。そういうのじゃないんだ。私だってパパとママを犠牲にして一人で幸せになんかなれない。


 魔王の暴走を止めるために私の力が必要?これは暗に性的な意味で私の身体を要求しているのだ。これほど私を、そして女性を馬鹿にした要求はない。私を求めたのは真実ほんとうに奏なの?それとも忖度したのは政府?私は確かめなければならない。


 翌日、私の「海外留学」が周知される。親友の清花とみちるは怒った。そりゃなんの相談もなかったからね。行き先はイギリスということになっていた。さすがに魔王に生贄として差し出しますなんて言えっこないからだ。

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