帰って来た【俺】の物語。旋律の魔王。
俺はパジャマにガウンを羽織ると寝室を出る。屋敷は完全に敵により包囲されており、現在は熱源感知装置で俺たちの居場所を特定している、いや違う。敵の中に魔法を使えるやつがいるのだ。なるほどアメリカ五大財閥の創始者たちはみな異世界帰りの異能者だったという。では魔法使いを抱えていてもおかしくはない。
ただこの屋敷は昭和の始めに建てられた日本の文化財だ。壊されるのも癪だ。俺が呪文を頭に浮かべると魔法が発動する。兵士たちの動きが止まった。
「『地中海』……ですか?さすがでございます。」
セバスチャンがお追従を言う。もっとも「地中」が海になるという意味で本来の地名とは異なる。
慌てたのは兵士たちだ。突然、足が地面に沈み込む。脱出を試みても肩まで沈み込む。そこで沈降は止まる。つまり、流動状態から戻ったのだ。彼らの肩から下は地面に生き埋め状態になったのだ。銃を出そうにもピクリとも動けない。
俺は兵士たちを見下ろしながら言った。
「ようこそ我が屋敷へ。パーティー会場をお間違えのようだな。」
俺は投降を勧める。指揮官は素直に負けを認めようとはしない。仕方ない。俺が指を鳴らすとセバスチャンの手に草刈り機が現れる。スターターを引っ張ると単気筒のエンジン音が静まりかえった夜の庭に鳴り響く。月明かりに回転する刃が不気味に煌めく。
「お庭を汚す雑草どもよ。私めが除草させていただきます。」
そう、これから首刈りショーになるのだが?
「魔王め……。」
指揮官は悪態をつきながら投降した。彼らの身は自由になったが、地面から這い上がると装備はすべて地中に残されたままだった。我が屋敷に侵入した証拠の品は没収だ。敷地外の総指揮官の車はすでに離脱したようだ。おそらく例の魔法使いも一緒のはずだ。
「帰っていいぞ。」
俺は兵士たちを帰すことにした。セバスチャンは抗議の視線を俺に向けるが口には出さない。
「ただし、
ほうほうの体で帰る特殊部隊を尻目でみながら、俺はセバスチャンに指示を出すと、彼は満足そうに頷いた。
翌日、アメリカ軍は軍事衛星8機が管制下を離れたことを察知した。そう、俺が取り上げたのだ。有効に使わせていただこう。
理由を知った大統領が顔を怒気で真っ赤にして、ホットラインで戸泉総理を怒鳴りつけるまでそれほど時間は要さなかった。
ただ、この案件が真綾にとばっちりとなるとはこの時は少しも予想していなかった。
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