差し出された【私】の物語。罠と蜜。その1

「帰ってくれ!」

 パパが声を荒げる。そんなパパを見たことは滅多にない。仕事に厳しいパパだけど、それを家に持ち込まないのがパパの主義なんだ。

「一度お嬢様ともお話しを⋯⋯。」

食い下がる二人組の男性を二度と来るなとパパは追い払った。


「どうしたの?私が何か?」

私はパパに聞くと

「お前には関係ないっ!」

まさに怒り心頭、といった様子。パパが私に怒鳴ることなんて滅多にない。だから私はそれ以上触れないようにした。


  パパが怒った理由を知ったのは翌日、学校でだった。授業中にも関わらず私は校長室へ呼び出しを受ける。そこには昨日パパに追い払われた男たちがいた。


 彼らは内閣府の職員で現在は「魔王対策本部」付きなのだそうだ。


「あなたたちは魔王と接触したようですが、何か御関係が?」

私はとりあえず、事故死した奏が庇った相手が自分であることと、彼が疎遠になった幼馴染であることも簡単に説明した。もっとも、それはすでに彼らも知っていたことだった。


「お嬢さん。我々を助けてはいただけませんか?魔王はあなたのことをを御所望なのですよ。」


 続く「提案」はとても現代社会の民主主義を標榜する政府が考えそうにもないものだった。?何それ?私に彼の家の「住み込みメイド」をしろですって?


 奏はアメリカ軍となにか問題を起こしたらしい。それでアメリカも奏も相当怒っているというのだ。アメリカは奏を引き渡さないことで。奏はアメリカの要求をきっぱり拒まないことで間に立つ日本政府が板挟みにあっているというのだ。


「私、関係無くないですか?」

私の抗議に彼らは下卑た笑みを浮かべる。

「関係ないことはありませんよ。そうです。ここからは取引ですから。」

そういって私に名刺を渡す。


  家に帰るとパパとママが沈痛な面持ちで待っていた。

「真綾。パパはお爺ちゃんの会社で働くことになると思う。単身赴任みたいなもんで家を空けるが、きみはしっかりここでがんばりなさい。」

どういうこと?パパは理由を頑として教えてくれなかった。ママは震えるパパの手をただ握っていた。


 まさか、私が関係する?とても嫌な予感がして、翌日名刺に書かれた連絡先に電話をするとすぐに担当者に取り継がれた。昨日の男で間違いない。男は言った。

「お嬢さん。お父様の会社を助けたいとは思いませんか?」

私の予感は的中した。

 

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