残された【妹】の物語。お兄ちゃんの部屋で。
「高山さん、最近ぐっと音が良くなったわね。この調子よ。頑張んなさい。」
先生に褒められた。私は
私は小さい頃はお兄ちゃんが羨ましかった。レッスンはピアノだけ。あとは友達とゲームをして遊んでた。私はピアノに加えてヴァイオリン。よくお兄ちゃんずるい!って癇癪をおこしてた。
パパとママが演奏旅行でいない時だけが私の時間だった。おばあちゃんはパパとママに2時間の自主練を欠かさせないよう頼まれていたんだけど、30分で「はい、2時間たったわよ」、とおしまいにしてくれたから。
お兄ちゃんの部屋に行くと、お兄ちゃんはすぐに私がもっていないゲーム機とソフトを貸してくれる。そして、ちゃんと、私のセーブデータも残しておいてくれている。別に何か会話するでなく、ゲームでわからないところをお兄ちゃんに教えてもらうくらい。その時間がなんだかとても心地よかった。
「いいな、お兄ちゃん。毎日ゲームできて。」
私が言うと、たいていお兄ちゃんは私の頭をなでながら、
「いいな、琴音ちゃん。お前には才能があって。」
っていう。でもお兄ちゃんには才能はないけど自由がある。
私は都内にある音大附属の中学を受験することにした。小さい頃よりは音楽が好きになり、レッスンが苦にならなくなってきたのだ。でも私は知っている。どれだけ頑張っても成功するのは一握りしかいない世界。特に裾野が広いヴァイオリンでプロを目指すのは狭き門だ。だから、だんだんとお兄ちゃんの部屋にいくことが減っていった。
無事に受験に合格し、家族でお祝いしてくれた。その晩、私は久しぶりにお兄ちゃんの部屋でゲームをする。最近やってなかったので昔のゲームをまだやっている。
「いいな、お兄。自由があって。」
私はなんとなく昔よく言っていたセリフをつぶやく。お兄ちゃんは微笑むと昔みたいに私の頭を撫でる。
「いいな、琴音。お前にはちゃんとした夢があって。」
お兄ちゃんが事故で死んでから、時々私はお兄ちゃんの部屋でヴァイオリンを弾く。お兄ちゃんのために、天国まで届く演奏を目指して。
私は最近思うんだ。私が目指しているのはプロじゃない。音楽の中にこめられたすべての人の思いを紡ぎ、自在に奏でることができたなら。その時、私はプロになっているはずだから。
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