帰って来た【俺】の物語。魔王の手土産と居丈高な要求。

 三日後、再び俺は総理官邸を訪れる。そこにいたのは総理だけではなかった。与党の幹事長高階俊之たかしなとしゆきと通信会社社長CEO李公正りひろまさ、そして中国(中華連邦共和国の略)の駐日大使も同席していた。三人とも明らかに怒っていた。高階と李は親中派の代表だからだ。


 「キミはなんてことをしてくれたのですか?」

総理は今日も青ざめていた。

「ああ、1000億円分の仕事をしただけですよ。でも軍事的効果は10兆円分くらいはありますでしょ、幹事長?」


 俺は世界に展開する中国海軍の原子力潜水艦12隻のうち稼働中の6隻をまるごといただいたのだ。搭乗員は全員ハワイの米軍基地の敷地に転送しておいたので問題はない。ニュースで報道されていないところを見るとしっかり情報統制が敷かれているようだ。


 「原潜には各々核ミサイルが6発ずつ搭載されてましたから我が『魔王国』はめでたく36発の核保有国になりました。大使閣下に断っておきますが俺は日本国民ではありません。ですから日本政府を責めないでやってください。もしどうしてもおやりになりたいのであれば、三峡ダムに何発かぶちかましてさしあげてもよろしいのですよ。最近コンクリにひびがはいっているそうで。」


「いくら払えば返してくれるのだ?」

大使が俺に詰め寄る。

「まあ、今のところ俺の安全を保証する担保なのでね。そちらの誠意次第じゃないですかね。」

「それは困る!」

 幹事長もCEOも俺に詰め寄る。幹事長は俺との交渉に失敗すればおひざ元の選挙区にある動物園からパンダを引き上げると脅され、CEOは俺との交渉に成功すれば、高い金でつかまされた海外の屑企業を買い取ってやるとなだめすかされていたのだ。


 いずれにしても年間1000億円で核の傘が買えれば日本政府にとっては安上がりのはずだ。日本政府は俺と「安全保障条約」を結ぶことにした。中国政府も原潜を奪われたなどという国辱を認めることもできず表立って動くことはなかった。アメリカ政府も中国海軍の水兵たちから事実を知ったようで静観を決め込んでいた。


 「それと『大使館』なんだけど……。」

俺は都内にある公園を指定した。そこはもともと貴族の邸宅跡で立派な洋館も残されていて、魔王の住処に似つかわしいと感じたからだ。


こうして俺の魔王ライフがはじまることになった。

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