差し出された【私】の物語。彼と私の瞳。
奏の「異世界」の冒険の話はとても興味深かった。というか、とても楽しそうだった。私があれだけ悩み、苦労して毎日を過ごしてきたのになんであんたはそんなに楽しそうなの?ご家族だって大変だったのに。なんだか胸がもやもやした。
奏のおばあちゃん
「ああこれ?」
不思議そうな私の視線に気づいたのか奏は照れ臭そうに答えた。
「『神の左眼、悪魔の右眼』って言うんだ。」
カラコン?奏は手を振って否定する。
「違う違う。異世界の力を使うと、もっと色が濃くなっちゃうんだよね。なんだか厨二病拗らせてるみたいで
⋯⋯自覚はあるんだね。
しかし、彼はこちらの世界に帰ってきた理由を教えてはくれなかった。
「大事なものを守れなかった⋯⋯罰かな。」
それだけ言った彼の目は、全ての事象を「俯瞰」しているようでもあり、全ての幸せを「諦観」しているようでもある。再会を喜ぶ人たちを他所に「傍観」しているかのようでもある。どこかで見た眼だ。
タクシーの中でパパは少し震えているようにも見えた。どうしたの?と尋ねるとパパは一度身体をぶるっと震わせた。
「奏くんの雰囲気をどう思った?怖くなかったか?……俺は正直言って怖いと思った。あれはまるで野獣の目だ。パパは職業柄、色々な過去を持った人たちと仕事をした。あれは人を殺したことがある人間にしかできない目だよ。⋯⋯あれは奏君じゃない。同じ姿をした別の何かだ。真綾、騙されちゃいけない。」
そうだろうか?私には寂しそうな目に見えた。私を見ても、私を透かして別の時空にいる誰かを見ているみたいな。もしかすると、異世界に誰か大切な人を置いてきたのだろうか。それとも、そこでその大切な存在を「守れなかった」何かがあったのだろうか。
私はパパに答えた。
「そう?私には悲しさをこらえているようにしか見えなかったわ。大事な人を喪ったことがあるような。……そう、お葬式の日の奏君のパパと同じ目をしてた。そして、奏君が死んでしまってからの私と同じ目ね。」
ただ、私は彼が置かれている大変な状況をその時は理解していなかった。彼にとって家族と再会はつかの間のものに過ぎなったのだ。
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