残された【姫】の物語。勇者様の面影。
私はリリアーナ・ブークリエ=ディ=アストリア。このアストリア王国の第一王女にして召喚師。
今日、あの方がこの国から退去なされた。我が愛しい方。高山奏。最強の精霊剣士であり、旋律の勇者。その奏でる旋律は魔物を震え上がらせ、同胞を強めて鼓舞する付与魔法師でもあった。乱世にあっても平治にあってもあの方の力は抜きん出ていた。
控えめな性格だけど忍耐強くて。私がどんなにわがままを言っても、ニコニコしてなんでも聞いていてくれる。私はあなたを伴侶にと心に決めていたのに。
それもみんなあの女のせい。穢らわしい半魔族の娘、マーヤ。あの娘を助けるため、あの方は魔王になってしまわれた。あんな穢らわしい女、生きる価値など麦の粒ほどもなかったのに!
勇者で魔王になったあの方を恐れたのは父上だった。父上はどうしてもあの方を国から、いやこの世界から追い出したかったのだ。そう、ほかの国に行かれても困るもの。
だから父上は私を大賢者ジャスティン様に妻として与えることを決めた。そうすればあの最強パーティを割ることができるから。
すると勇者様は引退を申し出られ、国政から退いて南の土地で穏やかに過ごすと決意された。そう、あの女を連れて。だから私は父上に教えて差し上げたの!あの勇者様が神々を超える力を発揮するのに必要なもの。それはあの女、マーヤに宿る「反魔族」の血であることを。
そして、彼女は不慮の事故で突然亡くなった。そう、解放記念祭の式典の会場から彼女は消え去り、冷たい亡骸となって発見された。私は彼女の消滅を望んだだけ。何も命じてないし、なんの関係もない。
それなのに、勇者様はこの世界から出ることを望まれたのだ。愛するもののいない世界は寂しすぎると。そして、この世界を憎み、自分が魔王として覚醒することが無い様にと。
私はあなたの愛が欲しかっただけ。最強の勇者に望まれて伴になる女性として後世に名を残したかっただけ。いったい、私のなにがいけないの?私の何が不満なの?
その気持ちがぐるぐると回る。行き場のない気持ちを抱えたまま、来週、私はウエディングドレスに袖を通すだろう。
王族としてはありきたりなつまらない結婚。父の決めた相手との結婚に。
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