帰ってきた【俺】の物語。魔王が城を築く理由(わけ)。

 俺は足を伸ばして実家近くの公園に、俺が異世界から帰ってきた場所へ行った。子供連れのお母さんたちや老人たちで割と賑わっていた。さて、これからどうしたものか。なんとか住民票を取り直して学校にでも復学するか、など真面目に考えていると救急車が公園に横付けで停まった。事故か?いや、病人か?


 しかし救急車から降りてきたのは救急隊にしてはイヤにイカつい人達である。彼らは俺を両脇から抱えると救急車へと連れ込む。ええっ!?俺なの?俺の身体がストレッチャーに固定されると発車する。連れてこられたのは精神病棟と思われるところだった。


 俺は拘束具で固定された状態で診察室の椅子に座らせられる。白衣を着た医師と思しき男と黒いスーツを着たヤクザ 風の男が俺の前に座る。黒いスーツの男は内閣調査室の調査員とだけ名乗った。


 彼らによれば合衆国アメリカが魔王である俺の身柄を要求しているらしい。しかし俺は法的にはすでに死亡している。だから大人しくこの病院で生涯を過ごすなら命だけはながらえさせてやるという。


「二度も死にたくはないだろう?」

男はにやけながらいう。俺は異世界でこういう手合いとやり合いすぎて少々度量が広くなっていた。自分が絶対的上位と勘違いして相手の力量を読み誤るタイプだ。なら思い知らせるしかない。


「逆に伺いますが、私は法的に死亡しているので如何なる法律も私に対しては無効であるということになりますが。そう判断してもよろしいでしょうか?」

 

「何が言いたい?」

「総理大臣に会わせてください。直接交渉します。」


 俺は一介の市民としてひっそりと暮していきたいだけだった。しかし、俺の魔王としての権能はそれを許してはくれないのだ。ならば自分で自分の城を築くしかない。俺は初めて魔王が城を築く理由を理解した。


  俺の身体から拘束具が落ちる。周りの男たちが銃を抜いた。しかしその手から銃が滑り落ちた。そう、やつらの手首と足首を俺の魔法で入れ替えてやったのだ。男たちの顔が恐怖と絶望で歪む。俺は精一杯の笑みを浮かべた。


「では総理との面会を取りつけてください。それとも一生このままでもいいですか?選ぶのはあなた方です。」


 俺の特殊魔法「五体倒置」である。人間の手足や頭の位置などを自在に入れ替えることができるかなりエグい魔法だ。でも仕方ない。人間は魔王にとっては家畜なのだ。だから殺すことなく恐怖を植え付ける。それが魔王としての嗜みなのだから。



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