差し出された【私】の物語。彼との再会は突然に。
「奏君が帰って来たそうだ。⋯⋯そう高山さんから連絡があった。」
噂に聞いていた奏が生きていたという噂。あれは本当だったのか?いや、私は自分の目で確かめるまでは信じられない。
今はお祖母様の家に預けられているという。私は父に連れられてそこへ向かった。私たちが着くとすでに奏のパパはいたが奏はまだ外出から戻っていなかった。
「いつもならとっくに帰ってきている時間なのにねえ。」
おばあちゃんはそう言いながらもせっせと料理を運んでくる。
「あの、私、お手伝いします。」
じっと下を向いて待っているよりは身体を動かした方がましだ。
そして、しばらくすると玄関を開ける音と人の気配がする。帰って来たんだ。私は緊張で身体を強張らせたままテーブルの横で立っていた。出迎えたおばあちゃんに続いて彼が入ってきた。
奏だ⋯⋯。
「三橋?」
奏が驚いたような顔をこちらに向ける。
「こりゃたまげた。」
やはり信じてはいなかったのだろう。父が声を上げる。
「ご無沙汰してます。」
そう言った奏はまるで別人のようだった。それは、私が中学時代に最後に認識した彼と比べての話だ。繊細そうで子供っぽい雰囲気は微塵も無かった。私よりもずっと歳上に見える。いや、剣道を嗜む私にはわかる。この男には一分の隙もない。剣道最上段位である八段位を保持するお爺ちゃんのような柔らかそうな上辺に包み込まれた鋼のような凄みだ。
奏は私を見て微笑むとすっと私の前に来る。彼はそのまま片膝を付いてしゃがむと手を差し出した。私が思わず左手を差し出すと彼は手の甲に軽く口付けをした。普通の日本人がやったら嫌味で
「今まで、何をしていたの?」
「今日の話?それとも死んだ後の話?」
彼の話は突拍子なさすぎて、正直頭に入ってこなかった。いや、私が悶々としていたのはなぜ、と言うくらい楽しそうだった。すごい違和感を感じる。私のここ半年の悲壮とも言うべきあの決意は何だったのか?という。
彼のもとを去る時、見送りに出た奏に私は聞いた。
「それで奏は魔法が使えるの?」
「それは秘密だよ、マーヤ。」
よ、呼び捨て?思わず私は顔に血が昇るのを感じた。多分、耳まで真っ赤になっていたはず。しかし、「マーヤ」が私とは違う存在で、思わず彼が間違えてそう呼んだことを知るのはもう少し先のことだった。
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