残された【祖母】の物語。幽霊でもいいから。
奏は私の孫。外孫だけど、私にとっては初孫だった。私にとっても特別な存在。身重だった娘が我が家に帰って来て親娘で励まし合いながら産まれてきてくれた子。初めてその子を抱いた時、自分の子の時と違って私の中を喜びと感謝の気持ちだけが駆け抜けた。生まれてくれて、ありがとう。
あれからもう16年。まるで昨日のことのようでしかない。でも、あの子は死んでしまった。可愛らしい女の子を守るために。ああ、神様。替わることができましたら、あの子の代わりにわたしの命を奪ってください。お願いです。いや、替えてください!何度も何度も祈った。
あの子が小学校に上った頃、私は演奏旅行で留守がちな娘夫婦に代わって奏と琴音の世話を焼いてきた。だから余計に可愛い孫たちだったのだ。ああ、夢でも幽霊でもいい。あの子に会いたい。
インターホンが鳴る。誰かしら?私が応対するとにわかには信じられない返答だった。
「奏です。高山奏です。ばあちゃん、俺、この世に帰ってきました。」
カメラの映像に目をやると間違いなく奏だった。あの子の魂が帰って来てくれた!きっと、後で考えると詐欺とか疑った方が良かったのかもしれないけれど、私は玄関まで走った。
ドアを開けるとそこにいたのは紛れもなく奏だった。生前の線の細さや繊細そうな感じがすっかり抜けて、見違えるほど逞しくなっていたけれど私には確信があった。奏に間違いはないと。
「奏!」
「ばあちゃん!」
私は彼を抱きしめた。彼は小学生高学年くらいから私とのスキンシップを嫌がっていたから、5年ぶりぐらいかしら。
「最近の幽霊は足がついているのね?」
私は自分でもバカだと思える感想を口走る。
「ばあちゃん、幽霊に足が無いのは日本だけだよ。」
「そうだったのかい?」
もう私にとっては幽霊だろうと妖怪だろうとどうでもよかった。奏が、帰って来てくれたのだから。
私は彼を家にあげると彼の話を聞いた。どれもこれもにわかには信じがたい話だった。でも、間違いなく彼は本物だ。私は彼を試すことにした。
「奏、お腹は空いていないかい?何か食べたいものはあるかい?」
この質問の答えは一択である。これが私と奏との最大の絆だと思うから。
奏も質問の意図に気付いたようだ。目を瞑り、眉間にシワを寄せる。これは娘と孫の共通のくせだ。
「ばあちゃんの⋯⋯煮込みハンバーグが食べたい。」
ああ⋯⋯神様!奏が帰って来てくれました!!
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