第2章:帰って来た【俺】と生贄に差し出された【私】の物語。

帰ってきた【俺】の物語。魔王の帰還は突然に。

 俺は現世ここに帰って来た。晩秋のしとしとと降りしきる雨。異世界むこうとあまり変わらない気候。ただ違うのは街並み。ここはおそらく俺が子供の頃よく遊んだ近所の公園。LEDの街灯に照らされたレンガタイルに雨粒が跳ねる。


 身に纏うのは懐かしい西和台高校の制服。ただ、俺の肩幅はあれから二回りほど大きくなっていてずいぶん窮屈に感じる。


  ミニパトが赤色灯を回しながら公園の脇にとまる。ドアが閉まる音がして、警官が二人、こちらに向かって来た。


「今晩は。ずいぶん遅い時間だけど。キミ、未成年?家はどっち?」

好意的な言葉遣いだが、その声のトーンは警戒感に満ちている。無理もない。高校生の格好をした男が夜中の公園で雨にずぶ濡れになりながら街灯の下で佇んでいるのだ。


「名前と年齢、住所を教えてもらえるかな?」

「今日は、西暦何年、何月何日ですか?」

 俺はお巡りさんが答えた日付を聞いて驚いた。異世界で俺は4年以上は過ごしたはずだ。しかし、俺が「死んだ」あの日からまだ半年しか経っていない。日付を聞かれてさらに不信感を深める警官に俺は苦笑混じりに答える。


「高山奏、16歳。住所は不定。⋯⋯職業は『魔王』です。」

ははは、面白い冗談だね、そう受け流しながら警官は俺をパトカーへと誘導する。俺は大人しく同行された。


 両親は何かの詐欺か悪質なイタズラだと思ったらしく、警察からの連絡をガチャ切りした。しょうがなくシャワーと着替えを借り、その日は留置所で泊まることにした。異世界では野宿もザラにあったから屋根があるだけ少しも苦ではなかった。


俺はもう一度家に電話する。出たのは母親だった。

「あの、俺、奏です。」

いわゆる「オレオレ詐欺」みたいだと自分で思いながら。電話から母親の嗚咽が聞こえる。

「よく、⋯⋯似てる声ね。酷いわ。奏は死んだのよ。なのに、なぜこんな似た声の⋯⋯。」

 そのまま母の慟哭が聞こえ、俺は居た堪れなくなって受話器を置いた。どうしようか。そりゃ火葬場で焼いて骨まで拾っているんだ。生きている、と言われて信じるはずもない。


 俺は仕方なく幸子ばあちゃんの家を訪ねることにした。




 



 

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