残された【私】の物語。そして、運命の歯車は回り始める。

 私、「三橋真綾みつはしまあや」はさいたま市で建設業を営む両親のもとに一人娘として生まれた。パパは私を後継者というより自分の会社を継いでくれそうな優秀な男の嫁にするつもりだったらしい。


 私が初めて家に連れて行った男が奏だったのだ。当然二人ともまだ未就学児だったのだからノーカン事案だけど、パパはあと20年もしたら本物を連れてくるんだろうなあと思うと何かこみ上げるモノがあったそうである。


  飾り程度に家に置いてあったアップライトのピアノで私の大好きなアニメの曲を弾いてくれる奏は私にとっては魔法使いみたいに思えた。間違いなく、それが私の初恋だった。


  やがて、小学校に上がり、クラスも別々だったせいか、いつのまにか彼とは疎遠になって行った。最初は寂しかったものの、新しい友達も増えていつしか彼の存在は忘却の引き出しの中に放り込まれたままになっていた。


 私はモノをハッキリと言えるタイプだ。だから決して「可愛い女」の部類には入らない。そして、私には好きなタイプがはっきりしている。だから同級生や同じ学校の生徒から無理矢理彼氏を探したいと思ったことはなかった。


 私が好きなタイプ。それは私より圧倒的に強くて、私にだけすごく優しくて、絶対に私を退屈させない人。

「そんなヤツはいません。(断言)」

「二次元とか行かないでね。(汗)」

 清花もみちるも心配してくれるけど、私は自分を曲げる必要を一切感じない。ただ、それだけのことだ。


 そして、11月も終わろうとする日。とんでもないニュースが飛び込んで来た。

 奏が帰って来たと言うのだ。それは冷たい雨が降り頻る夜だったという。西和台高校の制服を着崩した男が警察に保護されたのだ。男は「高山奏」と名乗ったという。


 クラスはその噂で持ちきりだった。奏の姿を街で見かけた、というクラスメイトもいた。当然、死亡届けも退学届けも受理されているので法的には奏ではないし、もうここの生徒でもない。でも、自分の目でどうしても確かめたい。奏のパパとママはすぐに認めて家に連れて帰ったというのだ。今はDNA検査で本物かどうか確認中だという。


私の心は踊った。

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