転生した【俺】の物語。突きつけられたもう一つの選択。

 俺は魔王を倒した。まだ止めを刺していないがそれよりもマーヤの治療が先だ。しかし、最悪の事態が待っていた。

「すまない。MP切れだ。」

健介が仰向けに倒れこんだ。無理もない。ガチでギリギリの戦いだった。

「ごめんな。マーヤ⋯⋯。」

健介の謝罪にマーヤは力なく首を横に振る。力なく閉じた瞼から一筋の涙がこぼれる。ポーションでもエリクサーでも無いのかよ!トニーが首を横に振る。そう、まさに総力戦だったのだ。


「勇者よ……。」

その時だった。すでに虫の息だった魔王の唇が動く。俺は睨みつけるように見た。

「我が力を受け取るがいい。さすれば、その者を助けられよう。」


「奏、耳を貸すな。それは罠だ。」

ジャスティンが警句を発する。


「罠かどうかはお主次第よ。力をお主に渡せば我が存在は消滅する。お主が新たな魔族の長になるだけだからな。お主に邪心さえなければ元の平和な世になるだろう。それともお主には邪悪な心があるのか?まあ、命をかけてお主を守ったいたいけな少女を見殺しにする程度だ。たいした覚悟の勇者じゃて。」

魔王の挑発の文言はまさに悪魔の誘惑であった。


「だめよ奏。耳を貸さないで!マーヤだってあなたを魔王にしてまで助かりたいと思っていない!」

 エリーが叫ぶ、そんなことはない!真綾だって、俺が助けて生きている。絶対に幸せだ。犠牲にして良い命などただの一つも存在しない。たとえ、それが俺にとって茨の冠であろうとも、俺はそれを喜んで頭に戴くだろう。たとえそれが、俺を処刑するための十字架であろうとも俺はそれを喜んで背負うだろう。


 そう、俺の二つ名は「旋律」。聖であれ魔であれ、光であれ闇であれ「調和ハーモニー」を奏でるものだ。俺は魔王の元に立つ。魔王は手を伸ばす。

「お主に我が力を与える。我に口づけせよ。」

げーーーーーーーー、と思ったが仕方がない。「野良犬にでもかまれた」としか思うしかない。もっともこのたとえが深刻でないのは、狂犬病の恐れが少ない地にいた日本人だからである。俺は求めに答えた。


魔王からおびただしい量のMPと力と情報が入ってくる。

「ふふ、本当は手をつなぐだけでよかったのだがな……。ばかめ。」

そういいながら魔王は存在が消滅した。


 俺は口元を袖で拭い、立ち上がる。マーヤ、もう心配いらない。どんなことをしようとも俺がお前を助ける。だって、この世界を救ったのはほかならぬお前なのだから。お前にはその資格があるのだ。

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