転生した【俺】の物語。突きつけられる選択。

 魔王ザムシャハーク、人呼んで「戦慄の魔王」。彼は俺たちとは違う時空から転生した男であった。やつもチートな魔力を使い、魔族を従え、女を侍らせていた。


  俺は剣士であると同時に精霊使いであり、パーティでの戦闘では付与魔法によるサポートに回ることが多い。その精霊召喚中の無防備な俺を守るのがマーヤの役目なのだ。

「ベーゼンドルファー。」

俺の前の空中に鍵盤が現れる。俺のために誂えられた魔導機である。ショパンの「英雄ポロネーズ」を奏でると皆の全てのステータスがアップする。


 魔王の眷属は尽く降した。それでも、魔王は圧倒的な強さを見せる。無論、奴の弱点は知っている。「反魔族の血」だ。この世界のどこかにその血の持ち主がいる。人間、亜人、魔族の血が8系統の8人の曾祖父母からの3世代目に生まれる奇跡の存在。 

 その血を持つ者はこの世界では極めて稀だ。なぜなら人間世界で生まれれば「禁忌の子」として密かに処分されるし、魔族に生まれれば脆弱な存在として簡単に淘汰されてしまうからだ。


 俺は四大精霊を召喚したものの、彼らからも「反魔族」の血を要求される。それが無いと勝利は覚束ないのだ。

「奏!」

俺を狙った魔王の鋭い触手が、身を挺して防ごうとしたマーヤの腹部を貫く。

「マーヤ!」

 俺はマーヤの身体を抱いて一旦後方へ退避する。しかし、なぜか魔王は追い打ちをかけようとせずに後退する。最強の魔王を怯ませたものはなにか?それはマーヤの血だった。その血を浴びた触手が腐れ落ち、その痛みに魔王は大きな声を上げる。


「健介、すぐに治療を!」

「⋯⋯待っ⋯⋯て⋯⋯。」

痛みに顔を顰めるマーヤが片目を開けた。

「私の血を⋯⋯使って。本当の私は『半魔族』じゃないの。⋯⋯『反魔族』なの。」


「奏?早く治療しないと、マーヤがもたない。」

健介の意見に俺は首を横に振った。いずれにせよ、俺たちが魔王に勝たなければ、マーヤを含めこの国の民はただ食い尽くされ、滅びるだろう。マーヤの生命が尽きる前に魔王をたおす。俺は四大精霊の求めるまま刀身に血をふりかけ、両方の耳たぶと頬にに塗る。


「絶対に死ぬな。お前は俺が必ず助ける。」

俺が立ち上がると俺の全身は眩いばかりの光に包まれた。効果を確認すると健介がマーヤの治療にとりかかる。時間がない。愛する少女を守るためには一刻も早くやつを斃さねばならないのだ。



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