残された【私】の物語。遠慮してるつもりはないけれど。

「三橋。次の土曜日に映画でも観に行かないか?」

不意に3年の城島先輩が私に声をかけた。先輩は男子剣道部の主将で、夏休みのインターハイで部活の引退が決まっていた。私は即答でお断りした。失礼します、そう言って立ち去ろうとした私の腕を先輩は掴む。


「まだ、事故のこと、引きずっているのか?」

引きずっているに決まっている。だって、まだ3ヶ月も経ってないし。

「そいつのこと、そんなに好きだったのか?」

「いえ、別に。」

 確かに、もし仮に今彼がいきていたとしても「好き」にはならなかったと思う。ただ、友達にはなっていたに違いない。

「じゃあ、別に『義理立て』る必要があるのか?」

そうじゃないんだ。単純に恋をする「その」気になれないだけなんだ。


 私はとりあえず「デート」を受けることにした。きっと先輩は私に気があるのだろう。先輩は「かっこいい」部類に入るだろう。ただ、私の好みのレンジとは違う系統のかっこよさだ。


 映画は邦画のラブストーリーだった。今をときめく若手人気俳優と、おそらくこの作品で大きく飛躍するだろうといわれる新進女優の学園ラブストーリーだった。ただ、制服が恐ろしく似合わないほど大人びた顔立ちの二人に私は興ざめしてしまい、後半はすっかり眠ってしまっていた。


 「三橋、映画、どうだった?」

終わったあとショッピングモールのフードコートでハンバーガーとポテトを食べながら感想を聞かれて私は言葉に詰まる。

「三橋、気持ちよさそうに眠っていたもんな。」

先輩は当然気づいていた。

「はい、『夢のようなひと時』でした。」

私がそういうと先輩はぷっと笑いを噴いた。

「三橋、面白いこと言うなあ。」

「そうですかぁ?」

そう、このフレーズは実は中学生の頃、奏が授業中の居眠りを注意された時によく使ってたものだ。


別れ際、城島先輩が尋ねる。

「なあ、これから三橋のこと、真綾って呼んでも良い?」

「ええ。家族も友人もそう呼んでますから、差支えはないですよ、。」

先輩がこの答えで私の意図を汲んでくれるといいな。


 私は少々の演技ではあまり心が動かなくなっている。だって、演技でない自己犠牲。演技でない死。演技でない慟哭。演技でない虚無感。私の中にあるリアルはあまりに重すぎる。ドラマがそれらを超えてくれる日が果たしてくるのだろうか?

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