残された【私】の物語。二人分生きるという決意。その2
私は忙しかった。剣道の個人戦でインターハイの出場を決め、1学期の期末テストで学年1位をマーク。みんな凄いと言ってくれるけど。私はもっと頑張らないといけない。奏に譲って貰った命を1秒たりとも無駄にしないために。
だんだん、睡眠が浅くなっていく。私は一人でこんな事をしていてもいいのだろうか。ただ睡眠も仕事のうちだ。なんとか寝ようと試みる。でもやっぱり眠れない。どうせ眠れないなら軽く勉強でもしておくか。
「真綾、おはよう。」
駅から歩いてくる清花とみちるに合流する。
「真綾、なんか目ぇ赤いよ。目薬点す?」
「歩きながらなんて無理だし。」
「そうそう。『ながら目薬』禁止!」
「そんな校則ないっしょ。」
バカを言い合いながら歩いている時間だけが私が私でいられる時間。⋯⋯でも。
あの事故現場だけは私は早歩きになる。止まってしまったら、ずっとそこで立ち竦んだまま泣いてしまいそうで。
「やっぱだんだん花が少なくなってるね。」
最初の一週間は献花台があったほどだが、今はもう、うちのママと奏ママが供えた花しかない。
「そういえば高山って、どんなやつだったっけ?」
ふとみちるが呟く。
「いやあ、あんまり絡みなかったんで、覚える前にお別れというか。なんかピアノ男子だったらしいよ。演奏を聞いたことはないけどね。」
清花が答えた。
そうなんだ。奏は二人にとってはその程度の存在でしかない。中学が違う彼女たちにとってはその程度のものだろう。でも、私にとっては⋯⋯物凄く、心外。アレ?
スーッとした感覚に襲われた私はそのまま気が遠くなった。
次、目を覚ましたら保健室のベッドの上だった。清花とみちるが担任に電話してくれたらしく、クルマで学校の保健室まで運び込まれたそうだ。
「よう寝たな。もう昼休みやっぞ。」
何か夢でも見たのだろうか。久しぶりに深い眠りだったので思い出せない。ただ、頬は涙で濡れていた。正直言って私も奏との思い出はそんなにない。ただ、疎遠になってしまったことに後悔しているだけなのかもしれない。
「過労やね。あんまり寝てないっしょ?事故の後遺症かもしれないからスクールカウンセラーで診てもらうといいかもね。」
保健の先生の言うことももっともだけど。⋯⋯私は⋯⋯。
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