転生した【俺】の物語。そこで出逢った大切な存在。

「真綾?」

 俺はひょっこり顔を出した少女を見て叫びそうになった。だって、その少女の顔は真綾そのものだったから。ただ、アルビノなのだろう。真紅の双眸と真っ白な髪。まさか、真綾も死んでここに転生してしまったというのか?


だが少女は首を傾げた。

「わたしに名前はありません。みなさんは母を殺しに来た勇者様たちでしょう?私が案内します。」

「??」

正直、俺たちの方も首を傾げた。母親を殺しに来た勇者たちをどちらに案内するつもりだよ。


「可愛い顔立ちだが良かった。どうやら俺の好みじゃないようだ。」

トニーが剣の鯉口を開ける。

「待てよ!まずは話しを聞こう。たとえ罠に誘うとしても、こんなダンジョンで迷い続けるよりはずっとマシだ!」

俺は思わずその少女を自分に抱き寄せた。そして気づいた。自分が女の子を初めて抱きしめたことに。あー、ちっちゃくて柔らけえ。


「ぁ⋯⋯ん。」

少女は少し艶っぽい声を漏らす。俺は我に返って少女から身体を離す。胸のボリュームは本物の真綾(埼玉県民女子)より圧倒的に豊かである。むろん推定値だが。なにしろ埼玉は貧乳の呪いをかけられた地なのだ。


  少女の話はこうだった。まずこのダンジョンには「迷宮魔法」がかかっており、それを解除しない限りはは出られないこと。その解除方法はこのダンジョンの主である竜女メリュジーヌを倒さねばならないこと。


竜女メリュジーヌは若い男を生贄として要求し、男と交わっては彼女のような眷属を生み出し続けているのだ。それで母親と言っても親子として関わったことは無いという。むしろ彼女はここから出たがっていた。彼女のような眷属は「出口」以外でこの迷宮で迷うことがないという。


 その時、俺たちの腹の虫が鳴る。そういえば、魔力切れでトニーが食事サプリメントを出せなかったのだ。

「じゃあ私がご馳走しますね。」

少女が背中のリュックから食材と調理器具を出す。収納魔法はいいね。そして、作ったものは「料理」だった。トニーの「サプリメント」とは比較にならない。パーティメンバー全員はこの時点で、まさに胃袋を掴まれてしまったのだ。


 その後、竜女メリュジーヌを倒した俺たちは⋯⋯ああ、ザッコだったんで戦闘は割愛な。揚々と引き揚げる。

「良かったら俺たちの仲間になってくれないか?いや、なってくださいお願いします。」

俺たちは少女に頼み込んだ。

「は……ぃ。」

うれしそうにうなずく少女。そして、俺は少女に名前をつけた。


「マーヤ」である。

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