残された【私】の物語。二人分生きる、という決意。その1
その日、私は生まれ変わった。
私は奏の分まで生きよう。そう誓ったのだ。人生は一度しかないのに、二人分生きる。その決意は私を駆り立てる。勉強でも、部活でも。部活は剣道部だ。それはパパが高校まで剣道をしていたからで私も小学校に上がる前から道場に通わされた。女のクセにとよく男の子たちにからかわれたが、私の方が強かったのでそれだけだった。
でも、本当は普通の女の子のようにバレエやピアノを習いたかった。そんな頃に近所で出逢ったのが奏だったのだ。奏の家は楽器がいっぱいで私はワクワクした。いいなあ、私も奏みたいにピアノを習いたいなあ、そういうと奏は首を横に振った。
「ピアノなんて女の子みたいでしょ。しかも僕、『絶対音感』がないから、パパみたいに(プロの音楽家)はなれないんだ。」
とても寂しそうに笑った。
「ピアノできるとかお前『オカマ』か?」
小学校に上がるとよくそれでいじめられていたっけ。私が見兼ねて介入すると
「やーい男女、お前が剣道使ったら破門だぞ。やーい。」
と憎まれ口を叩きながら去っていく。
才能もなく、いじめの原因にすらなっているのに、なぜピアノをやめないんだろう。それを知ったのは中二の時だった。クラス対抗の合唱コンクールの伴奏者が奏だった。そういえばいつの間にか疎遠になってしまっていた。そして、素人耳にも明らかなほど上手い伴奏だったのだ。私は感動のあまり声をかけることにした。
そして、奏と担任の会話を耳にしたのだ。それは、なぜ音楽の才能が無いにもかかわらずピアノを続けているのか、という問いに奏が答えていたのだ。
「家族との絆なんですよね。ただ、それだけっすよ。別に下手でもなんでもいいんです。音楽が好きでいることがあの家族でいられることの証しだから。」
そうか、そういう考え方もあるんだな。それから私も剣道に変な気負いを感じなくなった。 剣道で強くなくても、好きでさえいてくれればいい。きっとパパもそう思っていてくれるだろう、あれはパパと私の「絆」なんだろう、そう思えたから。
だから、ずっと離れていても何となく気になる存在だった。だから、彼の死は私にとってはただの死ではなかったのだ。
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