残された【私】の物語。疎遠だった幼馴染の男の子が私を庇って死んだ日。その2

奏のママはずっと泣いていた。妹の琴音ちゃんも懸命に慰めているが自分も涙を拭く手を止められない。奏のパパはただ一人、遠くを見つめるような目でいて、今にも崩れそうな身体を精神力だけで支えようとしていたように見えた。棺は蓋が開けられ、生花に縁取りされた奏が眠るように横たえられていた。


―本当は、私があそこにいるはずだった。―


そう思うと私の身体が震える。そして、あそこには私のパパとママがいたはずなのだ。運命のいたずら⋯⋯なんかじゃない。奏の自己犠牲によってそれは違う結末を迎えたにすぎない。私にここにいる資格なんかない。そう、私が、私が彼を殺してしまったようなものだ。


「真綾。あなたは何も悪く無いのよ。⋯⋯奏君だって自分も死ぬつもりじゃなかったはずなの。これは事故。運命の⋯⋯。」

ママはそう言いかけてやめた。私の目が止めてと訴えていたのかも。


パパはママと私を連れて奏のパパのところに行った。なんて言われるだろう。「人殺し」なんて言われたらどうしよう。私は恐ろしくて足が竦む。


奏のパパは私のパパと同じ「てつや」だった。字は違うけれど。奏パパは驚くほど穏やかだった。きっと悲しみが深すぎるのだろう。彼は私を見ると無理矢理微笑んで見せてた。

「真綾ちゃん、久しぶりだね。君が無事で本当に良かった。おかげで、私は今こうして息子のことを誇りに思える。」


 きっと、これは建前だ。パパは言っていた。通夜の時の奏パパは自嘲気味に言ったそうだ。

「絶対に娘さんを責めたりなさらないでください。わかっているんです。これは事故⋯⋯なんですよね。誰も奏のことを憎んでやったわけじゃない。わかっているんです。⋯⋯その、頭の中だけではね。わかっているんですけど、私は⋯⋯私はいったい誰を恨めばいいんでしょうね?」

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