転生した【俺】の物語。俺が現世で成し遂げた唯一の功績。その1

柔らかなチェロの音色が俺の耳を撫でるように聞こえてくる。

ただ、何かの曲というよりは退屈ないつもの練習曲エチュードだ。


 目を覚ますと目覚ましの鳴る1分前である。あいにくと起こしに来てくれる幼馴染の女子はいないので諦めてベッドから起き上がる。


俺、高山奏たかやまかなではチェロ奏者の父とハープ奏者の母を持った音楽一家の生まれだ。両親はさいたま市交響楽団で演奏家をしている。だから名前が「奏」、なのだ。残念ながら俺には「絶対音感」が無く、音楽は趣味程度。一方、妹の琴音ことねには音楽の才能があり、今は都内の音大付属に通ってヴァイオリン奏者を目指している。今は目指せウイーン留学だ。


「おはよう。」

俺がリビングダイニングに行くと親父が小難しそうな顔でチェロを弾いていた。

「おはよう。もう琴音は学校に行ったぞ。」

そりゃそうだ。都内といっても山手線の外側だからさいたま市から通うには電車の関係で少し早めに出ないとならない。


トーストとコーヒーを中心にしたありきたりな朝食を摂り、冷凍食品と昨夜の夕食の残りで構成された弁当を母親から受け取ると俺は学校に向かう。俺が通う県立西和台高校は家からほど近く、徒歩5分だ。そこそこの進学高で、俺にとっては偏差値がギリギリだったのだが、この高校に受かるために受験を頑張ったのだ。


「おはよう。」

駅から歩いて来る同級生と合流する。いつもの『家が近くて羨ましい』トークを聞いていると三橋真綾みつはしまあやが女の子たちと歩いているのが目に入る。


「三橋、可愛いよなぁ。お前同中おなちゅうだったんだろう?」

羨ましがられても友達づきあいがあったのは小学校低学年までで、かけっこが遅くて球技が下手くそな俺は、スクールカーストでは最底辺だった。だから陽キャの権化にてカースト最上位の彼女とはここ数年話したこともない。

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