魔王化して現世に返品された元勇者【俺】と、生贄に差し出されたツンデレ美少女元幼馴染メイド【私】の物語

風庭悠

第1章 転生した【俺】と残された【私】の物語。

残された【私】の物語。疎遠だった幼馴染の男の子が私を庇って死んだ日。その1

「居た堪れない」。


その一言に尽きる。小ぢんまりした祭壇に載せられた遺影だけが、この会場で笑みを浮かべている。僧侶の読経が流れる中、私は涙すら出なかった。あの日、いや、たった2日前、私はいつものように通学路を友達と歩いていた。そこにSNSで連絡が入ったのだ。


校則で「歩きスマホ」は禁止なので、私は道端の垣根に寄って立ち止まって内容を確認した。ただそれだけだった。

「真綾!」

私を呼ぶ聞き覚えがある声。誰だったけ、そう思った瞬間私は強い力で突き飛ばされる。その時、響くけたたましいブレーキ音。何かがひしゃげ、潰れるいやな音。ちょっと、スマホの液晶が傷ついたらどうすんのよ。ぼんやりそう思った後、私は恐怖で身がすくむ。


 大きなダンプが、黒々としたタイヤ痕をつけながら塀に激突している。私の顔のすぐ前で大きなタイヤが油の臭いをさせている。ブレーキから排出された圧縮空気が顔にかかった。

「真綾!」

 今度は友達の声、清花さやかとみちるが私を呼ぶ声がする。私は起き上がる。大丈夫?怪我は?大人たちが私の安否を尋ねる。私は恐怖と動揺で声が出ず、ただ頷くだけだ。


「学生が轢かれたぞ!救急車だ!」

大人たちが叫ぶ。私はダンプの突っ込んだ塀からさらに目をやると男性のような人影が倒れている。それも、あってはならない姿勢で。ダンプの積荷の土砂が撒き散らした埃に塗れ、顔も制服も汚れていた。その目を瞑ったまま動かない彼の横顔を見て、その名前は私の脳裏にすぐに、そしてはっきり浮かびあがった。


高山奏たかやまかなで」。


その瞬間、私は気を失った。


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