第7話 マナブとパイロキネシス(後編その1)
タツロウに協力する事になった俺達だが、協力の申し出自体は完全にその場ノリで言い出したことだったので特に具体的な作戦などは考えていなかった。
ただ、好都合なことに午後の授業は二時間ともトオルたちのクラスと合同で被服室での家庭科の授業なのだ。
俺とツヨシはトオル達、そして今回のターゲットである湯布院さんとは別クラスだ、この合同授業を逃すと次居つチャンスが来るかわからないので、この機を逃す訳にはいかないである。
つまり現状は決行のタイミングは決定済みだが、作戦自体が白紙という状態だ、迅速に作戦を考える必要がある。
「僕に考えがある」
発言者はトオルだ。
流石はトオルだ、先週の着替え念写作戦も作戦自体は完璧だったからトオルに任せれば問題ないだろう。
「幸いなことに、家庭科の先生は席順についてはゆるい先生だから、湯布院さんの前後左右どこでも良いから隣にタツロウを座らせて、そのタツロウの周りを僕たちで囲おう」
恐らく湯布院さんも友達どおしで固まるだろう、かなり運が絡むが湯布院さんのグループ内で湯布院さんが端っこに座ることが第一条件だ。
「そして肝心の作戦内容だが……タツロウはいつも通りに能力を発動させて、マナブとツヨシが超能力で風を起こして少しでも涼しくなるようにしよう、僕はタツロウが湯布院さんの透けブラが生で見れるまで耐えれなかった時に念写するよ」
出来れば、タツロウには透けブラを自分のその目で直接見て欲しい、トオルの念写はあくまで保険ということだろう。
それにしてもトオルの軍師っぷりがエゲツない、生まれる時代が違えば教科書に名前が乗るくらいに名を馳せたのではなかろうか?
「か……完璧だ」
「天才かお前は?」
タツロウとツヨシがトオルの灰色の脳細胞……もとい桃色の脳細胞に驚嘆を示す。
ちなみに灰色の脳細胞とは、英国の推理作家アガサ・クリスティの作品に登場する名探偵エルキュール・ポアロが、優れた洞察力を持つ自身の頭脳を指していう言葉である。
トオルは普段は勉強はダメダメだが、こういったエロが絡むと途端に頭が切れるようになるのだ、流石は桃色の脳細胞、お前の血は桃色か?
「もちろんこの作戦にも問題点はある、湯布院さんが何処に座るかという点は言わずもがなだけど、マナブとツヨシの念動力のコントロールの制度にかなりの技術が求められるんだ。エアコンを付けた教室の窓は締め切っているのに風が吹くとおかしいからね、僕たちだけに風が当たるように台風みたいな円状に風を起こさないといけないんだ。出来るかい?」
俺とツヨシの超能力での風起こしは、念動力で大気を動かして風を発生させるものだ、ただ風を起こすだけならさしたる問題もないが、自分たちの周りだけで円状に風を発生し続け無ければならいのはかなりの重労働だ。
楓のスカートめくりという日々のハードトレーニングを経て集中力が増したとはいえ厳しい戦いになることは容易に想像できる。
だが、それでも……俺達はタツロウの心からの願いを、そして涙を、この目に……いや、この胸に焼け付いている。
苦しいとか、キツイと言った事なんかで降りることは出来ないし、失敗なんて許されない。
「大丈夫だ。問題ない」
「同じくだ」
俺とツヨシの返事を聞きトオルは満足そうにニヤリと笑う、タツロウそんな俺達に頼もしそうな目を送っている。
へへへ……よせやい、照れるぜ。
「な……なぁ、その……円陣組まねぇ?」
少し照れくさそうに、ツヨシが言う。
ツヨシは俺と同じで帰宅部だ、密かに運動部などが試合前に行う円陣に憧れがあるのだろう。
「ああ良いぜ」
「も……もちろん」
「お……俺も」
俺たちは照れくさりながらも、肩を組み合って円陣を作る。
「ツヨシ、言い出しっぺだろ? 号令頼んだ」
「ええ? ……っよし! 行くぞ。……我らサイキック少年団!! ファイト!」
「「「オー!!」」」
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を、風………なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに……でもサイキック少年団はダサい。
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時は飛んで現在は被服室での家庭科の授業中だ。
第一関門だった湯布院さんの座る席はグループ内の端だったので、俺達は作戦通り湯布院さんの隣にタツロウを置き周りを俺たちで囲むことが出来た。
タツロウを中心に、左を湯布院さん、右がツヨシ、前がトオル、後ろが俺という布陣だ。
授業が始まり、しばらくしてから作戦を発動させる。
授業中にあまり大っぴらに話はできないでので、授業前に作戦開始時にトオルが合図を送る手はずにしたのだ。
トオルの合図を確認した直後、自分の体感温度グンと上がった気がした。
これから更に温度は上がっていくのだろう、タツロウは超能力の持続時間が長いようだ。
いつも保健室に送りになっているのは、温度に体の方が耐えられなくなって力尽きている訳であって、超能力の持続時間が切れて力尽きている訳ではないのだ。
タツロウとは対照的に俺とツヨシは持続時間が短い、精々持って1分位だがその代わり結果がすぐに出るのだ。
例えるなら俺とツヨシが100m走ならタツロウはマラソンと言ったところだろうか。
俺達とタツロウの超能力の持続時間の違いもあり、温度が上がってもすぐに風を起こすわけにはいかない。
タツロウはいつも10分くらいで力尽きるとの事だったので、俺達の出番はタツロウの超能力発動から8~9分位から始めるのがベストだろう、俺達の発動タイミングもトオルから合図が出る予定になっている。
タツロウの能力発動から5分が立った頃、俺の感じる温度はかなり熱くなっている、隣の席と言ってもわずか距離だがそれでもタツロウは熱の伝導効率が落ちると言っていた、恐らくタツロウは今俺が感じている暑さとは比べ物にならない暑さと戦っているのだろう。
タツロウ……お前ってやつは……タツロウの奮闘っぷりに、胸に熱いものがこみ上げてきて気を抜けば涙がこぼれそうになる。
俺が涙をこらえている内に丁度いい時間となったようだ、二つ前の席のトオルからGOサインのハンドシグナルが送られる。
来た! ぃよし! 待ってろタツロウ! 俺たちが涼しくしてやるからな!
俺は最大限の注意を払って、タツロウの左隣にいる湯布院さんには風が当たらないように超能力を発動させる。
右前のツヨシも後ろから見える背中に力んでいるのを感じる、どうやらツヨシも念動力を発動したようだ。
そして超能力でもって発生させた風を顔に浴びて数秒……この作戦が失敗したことを悟ってしまった。
顔に浴びる風が熱いのだ。
いや熱いなんて生易しいものではない、もはや灼熱と言っても過言ではない。
最初は熱いのは最初だけですぐに涼しくなると思っていた、だが風は涼しくなるどころかその温度をどんどん上げている。
サウナにおけるロウリュと言う物をご存知だろうか?
サウナの本場であるフィンランドに伝わるサウナ風呂の入浴法の一つで、熱したサウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させることにより、体感温度を上げて発汗作用を促進する効果があるというものだ。
ここ日本に置いては、そのフィンランド式ロウリュに加えて、ドイツ式の風を送って体感温度を爆発的に上げると言う物を一緒に合わせて、ロウリュサービスとして提供しているサウナ店もある。
もうおわかりだろう、俺とツヨシが発生させた風は、図らずもロウリュの熱風サービスと同じ物になってしまったのだ。
熱の伝導効率が落ちてる位置にいる俺達でも、耐えられないほどの熱さだ。
最も温度が高い位置にいるタツロウへのダメージは、俺たちの比ではないはずだ。
作戦の失敗に気づいた直後に超能力を止めたが時既に遅し、タツロウは自分の机に突っ伏していた。
「タツロウ大丈夫か!?」
「先生! 俺たちが保健室に連れていきます!」
先生に断りを入れて、俺とツヨシがタツロウ両肩を左右に分かれて抱え、トオルが両足を担いで運ぶというスタイルで被服室を飛び出す。
被服室を出る直前、タツロウの苦労は報われていたかを確認するためにチラリと湯布院さんを見る。
残念ながらタツロウの苦労は報われていなかったが、湯布院さんがやけに心配そうな表情でタツロウを見ていたのが、妙に印象に残った。
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