第2話 マナブと念動力(後編)



 午後の授業である現文と英語の授業で楓はそれぞれ一回ずつ指名され、席を立った。

 そのたびに俺と藻矢士のバトルが始まるが、現在は俺の圧勝である。

 なぜなら、下から上に浮かそうとする藻矢士に対し、上から下へスカートを押さえつける俺が重力がある分有利なのだ。

 勝負は既に決したが、お互い他の超能力者に出会ったの初めてで、当然超能力を屈指して戦うのも初めてだった。

 俺たちは途中からこの状況が楽しくなっていた。


 現文の授業終了後に藻矢士と連絡先を交換し、英語の授業でのバトル終了後こっそりメッセージアプリでやり取りをして、放課後人気のない屋上でもう一回バトルしようぜという事になった。

 テンションが上がったせいでまともな判断力が低下していたのか、めくるスカートがないと戦えないという思考にいたり、楓も屋上に呼ぶことにした。

 呼び出しは幼馴染で親しい俺が担当だ。


 英語の授業終了後、ホームルームまでの僅かな時間に楓の席まで移動する。


「なぁ楓……ちょっといいか?」

「なぁに? 学ちゃん?」


 教室で俺から話しかけることはめったに無い。

 珍しいこともあるもんだと思っていそうな表情の楓に俺は要件を伝える。


「放課後、屋上に来てくれ。用事がある」

「へ? ……えっ!?」


 楓の顔が一瞬で赤くなる。


「じゃ、そうゆうことで」

「ちょっ……学ちゃ……」


 楓の静止にこの後の超能力バトルにワクワクしている俺は気づかない。

 ウキウキしながらホームルームまでの時間を藻矢士とメッセージのやり取りをして過ごす。


【楽しみだなwツヨシ】

【ああマナブよ、俺はワクワクが止まらねぇよwww】


 いつの間にか下の名前で呼ぶ合うまでになった俺達だった。

 ふと楓を見ると、後ろから表情を見ることは出来ないが、耳を赤くしてしきりに手鏡で前髪を整えていた。

 何やってんだあいつ……まぁいいか。

 そして決戦の放課後が始まる。


 ホームルーム終了後、そそくさと教室から出る楓。

 恐らく先に屋上で待つつもりなのだろう。

 俺はツヨシと連れ立って、遅れて教室を出る。

 ツヨシとくだらない会話をしながら、屋上へとたどり着く。

 重い扉を開けると、案の定楓が先に待っていた。


「すまん。またせたか?」

「ううん。全然待ってな……え? 藻矢士くんと一緒なの?」

「やぁ! 立川さん」


 明らかに楓が混乱している。

 そう言えば何をするか伝えていなかった。

 だが超能力バトルをするなんて言えない。

 信じてもらえないだろうし、もし信じてもらえたら朝の日課が警戒されてやりにくくなる。

 ここは何も触れないでいこう。


 混乱している楓をよそに俺とツヨシは移動する。

 楓を挟んでお互いに4、5mほど距離を取る。


「えっ!? 何この状況? 学ちゃんどういう事?」

「あー、楓はそのまま動かないでくれ、そして10秒後にスタートって言ってくれ」

「ええっ? ……うん」


 納得は出来ていないようだが、とりあえず言う通りにしてくれるらしい。

 大人になったら詐欺とかにあいそうだな……俺がしっかり見張っておこう。

 だがまずはこの戦いに集中だ。


「えっと……じゃぁ……ス、スタート!」

「フン!」

「ハァァァァァ!」


 楓の合図と同時にお互いに右手をかざし力を込める。

 やはり重力が味方の分、俺が有利だ。

 勝利を確信してツヨシを見やるとその表情は―――――笑っている?


 ツヨシは空いた左腕を大きく動かし、右手と同じ位置に掲げる。

 するとスカートを浮かそうとする力がぐんと強くなった。


「え? 二人とも何してるの?」


 なにぃ!?

 まさか、教室では本気を出していなかった?

 い、いや違うこれは……風か!? その発想はなかった!!


 俺たちの能力は軽い物を動かせるものだ、それはつまり空気中の大気をも動かすことが出来るということだ。

 ツヨシが超能力で起こした微風はスカートをまくりあげる力に加算され、俺の重力を加えた力に勝っていた。


 ま、まずいっ! このままでは負けてしまう。

 慌てて見様見真似で俺も風を起こしスカートを抑える力に加算させるが、風の扱いに向こうが一日の長があるようだ。

 俺が超能力+重力+風で有ることに対し、ツヨシは超能力+風で完全に拮抗している。

 楓のスカートは少し浮いた状態でピクピクと動いている。


 完全に勝負が停滞してしまった。

 これでは先に集中を切らしたほうが負ける。

 だがツヨシは俺より超能力の扱いになれているようだ、集中力も向こうが上かもしれない。


 こういう時マンガでは、過去回想が入りそこでアイディアを得た主人公が勝つパターンが多い。

 ここは俺も過去の思い出をあさり、なにか突破口を見つけなくては―――――


 -------------------------------------


「よいか学」


 こ、これは!? 死んだじいちゃんとの思い出!


「男が女に自分をよく見せる時に自分を持ち上げて武勇伝を話す事があるが、女はそんな男の心理を見抜いておる。それはそれは滑稽に映るもんじゃ」

「ええ。おじいさんも滑稽でしたよ」

「グハァッ!! ばあさんやそれは言わんといてくれぇ」


 ばあちゃんまで!? これは俺が5歳の頃、じいちゃんに女を口説く方法を教えてもらっていた記憶だ。


「でじゃ。じゃあどうすれば自分をよく見せることが出来るかということじゃが……」

「もう、おじいさんったら……学ちゃんはまだ5歳ですよ」

「お前は黙っとれ! 男はいくつでも男なんじゃ!!」


 ああ、懐かしい。

 じいちゃんはこの後なんて言ってたっけ……


「良いか学。自分を持ち上げるんじゃない。他の男を引きずり落とすんじゃ」


 うわぁ……じいちゃんゲスいな……

 そうだった。

 じいちゃんはこんなひとだったな……


 -------------------------------------


 ―――――――超能力関係なくね?


「ぐぅッ」


 余計なことを思い出したせいで集中力が切れてしまった!

 集中が切れたと同時に、ここまで酷使していた自分の体が悲鳴をあげる。

 俺は思わず片膝をつき、崩れかかる。


 マズイマズイマズイ!!

 このままだと楓のスカートがめくれパンツが見えてしまう!

 いや、俺も見たいんだけどツヨシにまで見えてしまう。


 楓のパンツは俺だけで見たいんだ!!


「フハハ! 俺の勝ちだ! マナブゥゥ!」


 勝利を確信した、ツヨシが更に力を込める。


「キャッ! 風が」


 スカートがめくれそうな事に気づいた楓が抑えようとするがもう遅い。

 な、何か手はないか!?


 ――――良いか学


 そ、そうかじいちゃん!

 屋上の床に這いつくばりながらも俺は声を出す。


「ツ、ツヨシィィィ!!」


 ――――自分を持ち上げるんじゃない


 肩で息をしながら、疲労困憊の俺はそれでも声を張り上げる。


 ――――他の男を引きずり落とすんじゃ!


「チラリズムだー! ツヨシィィ!!」

「は? チラリズム……あっ!? 見え……見え……見えそうで見えない!!」


 ふわりと楓のスカートが元の位置に戻る。

 ここに勝敗は決した。


 ツヨシはこれまで、99人のスカートを捲れてこれのはチラリズムの事を意識していなかったからだろう。

 俺なんてまだ一度もスカートをめくれていないのだ、そうでないとスカートをめくることなんて出来やしない。


 他の男を引きずり落とすとはすなわち、自分と同じ性癖を植え付けパンツが見える直前に集中力を切らせるものだったのだ。

 ツヨシが既にチラリズムを克服していれば効果はなったろうが……どうやらこの分の悪い賭けに俺は勝ったようだ。


 やったよじいちゃん。俺、勝ったんだ。

 天国で見守ってくれているじいちゃんに勝利報告をする。


 屋上に倒れ伏したツヨシを見る。

 恐らく俺と同じで力を使い果たしたのだろう。

 俺はゆっくりと起き上がり、困惑する楓を素通りしてよろよろとツヨシの元へとたどり着く。

 ツヨシは仰向けに大の字で寝転がり、俺を見上げる。

 そんなツヨシを見下ろしながら、俺は勝利宣言をする。


「どうだツヨシ? チラリズムはエロかっただろう?」

「ああ、エロかった……俺の負けだ」


 ツヨシの敗北宣言を聞き届けた俺は、ツヨシの横に同じ様に大の字で寝転がる。


「お前やるな。強かったよ」

「そういうお前こそ……な」


 とても疲れたが、超能力を使う戦いは楽しかった。

 ツヨシとの間に確かな友情を感じる。


「ちょっとどう言うこと!? どうして私を挟んでハァハァした後に、喧嘩した後お互いを認め合う不良みたいな感じになってんの!? ワケ解んないですけどー!!」


 己が力を振り絞り、お互いの健闘を称え合う俺たち二人を尻目に乙女の叫びが夕焼けに染まる校舎に響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る