サイキック少年ボウイ・マナブ(連載)

ぬこダイン

第1話 マナブと念動力(前編)



 超能力と聞いて想像するものはなんだろうか。

 現実なら透視や未来予知、空想の世界なら重いものを浮かせたり、瞬間移動といったところだろうか。

 だが考えたところで意味など無い。

 なぜならこの世にそんなも存在しないのだから―――――。


 と、以前の俺ならそう思っていた。

 だが今は違う。

 なぜならこの俺、坊井ボウイマナブは超能力に目覚めたからだ。


 いつから、そしてなぜ使えるようになったかはわからない。

 呼吸の仕方を知っているように、ある朝起きたら超能力が使えること知っていたのだ。

 それと同時に、何が出来て何処まで出来るかもわかっていた。


 普通なら朝目覚めて超能力が使えることを自覚したら飛び上がって喜ぶだろうが、俺はそうはならなかった。

 なぜならこの能力が、”紙や布の様な軽い物を動かせる”といったなんとも微妙な能力だったからである。


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「学ちゃん! 起きてー! 朝だよ!」


 ユサユサと揺り動かさせる感覚に意識が浮上する。

 まぶたが重くて開くことが出来ないため、耳で聞いた情報から判断するに、幼馴染のカエデが俺を起こしに来たのだろう。

 わざわざ起こしてくれるのはありがたいが、昨日は初代バイオの自己最速クリア記録を更新すべく夜遅くまで頑張っていたので非常に眠いのだ。


「あと5分……あと5分で起きなかったら、俺の事は見捨ててお前だけでも幸せになってくれ……」

「このシチュエーション以外でその言葉を聞きたかったよ……もう! どうせゲームして夜ふかししたんでしょ!?」


 むう……見透かされてる……さすが幼馴染。

 ここは二度寝することの正当性を主張して認めてもらうしか無い。


「失礼な。貴方は今の私を見て、寝ているだけとお思いでしょうが、これは立派な学習なのですぞ」

「もう結構起きてるよね? べらべら喋ってるし」


 楓のツッコミをスルーして俺を主張を続ける。


「春眠暁を覚えずと言う古語があるでしょう? 春の夜は心地よいので、朝になったことにも気づかず眠り込んでしまうという意味なのですが、私はより理解を深めるためにこれを実施しているのでとても忙しいのです。勉学の邪魔をしないでいただきたい!」

「今は夏だよ!!」


 たたき起こされた。



 無理やり起こされた俺は非難がましい目で、悪魔の所業をした女を見やる。


 彼女の名前は立川タチカワカエデ、身長は148cmと小さめ目で、 ミディアムカットの髪と幼さが残る顔立ちが活発な印象を与えている女の子だ。

 認めるのは癪ではあるが、顔の作りはかなり整っていて校内の人気も高い、だが残念なことに胸のサイズは平均以下で、本人曰く調子の良い時はCカップと言っていたが、身長を150cm超えていると見栄を張っていた経緯があるので、バストサイズも真偽の程は疑わしい。

 

 俺の親は仕事の関係で朝が早い時があるため、遅刻しないようにと家が隣の楓が起こしに来てくれているのが、幼い頃からの習慣となっている。

 俺と同じ学校の夏服の制服に身を包んでいる幼馴染は、起きた俺を見て満足そうに微笑んでいる。


「早く着替えて降りてきなよー。先に行っちゃうよ?」


 そう言って部屋から出ていこうとする楓に、俺は朝の日課の超能力攻撃をお見舞いする。

 御存知の通り、俺の能力は軽いものを動かせると言ったものだ。

 非常に高い集中力を求められ、その上100mを全力疾走ほどの体力を消費してやっと起こせる結果がこの程度のものである。


 最初は落胆したが、動かした先に得るものが労力に見合ったものであれば良い事に気付いた。

 俺が動かすことに決めたターゲット……それは楓のスカートだった。


 男子高校生が超能力を持ったらエロいことに使うに決まってんだろ!


 だが、今まで何度も挑戦したがまだ一度も成功していない。

 なぜならパンツが見える直前、見えそうで見えない状態が一番エロいからである。

 このチラリズム的エロスで俺の集中力が切れ、一度も成功に至っていないのだ。

 楓、恐ろしい子っ。



 さぁ行くぞ!

 叩き起こされた俺の恨みをしかと受けるが良い!


 うおおぉぉぉ、ハァァァァ

 おお、見え……見え……見え……そうで見えないッ!!


 ベッドの上で肩で息をしている俺に気づかず、楓は部屋を出ていく。

 くそっ! 今日もだめだったか…命拾いしたな、楓。

 今日はこのへんで勘弁してやる……遅刻しそうだからな!!


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 楓と二人で登校する。

 楓は髪を揺らしながら楽しそうに歩いている、これから学校に向かうというのに、何がそんなに楽しいのだろう。

 小学校の頃からこの光景は変わらず、よく夫婦だなんてからかわれたものである。


「でさーそれが臭くってね」

「……そうか」


 ちなみに普段からこんなにそっけない態度をとっているわけではない。

 起こしてもらう分際でそんな事はできない。

 これは楓が昨日、風呂場で屁をこいたら想像以上に臭かったと言う話をしてきたので、普通に引いただけである。


 JKが朝からする話か? これ……


 そんなこんなで学校に着き、授業を受ける。

 ちなみに楓とは同じクラスである。

 先生の視線を掻い潜りつつ足りない睡眠を補って居た俺も、午前最後の授業となると流石に目が覚めていた。

 そしてこの後始まる壮大な超能力バトルはこの授業中に起こることがきっかけとなるのだった。


 ・


 ・


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 んん??……何だあれは?


 それは先生から指名を受けた楓が、席を立ち教科書を朗読している時だった。

 楓のスカートが少しずつめくり上がろうとしていたのだ。

 教室の窓はしまっている、風もないのにスカートが勝手に動くなどおかしいが俺はこの光景をよく知っていた。


 俺が超能力を使う時と似ている……? だが俺は今何もしていないぞ! 

 まさかっ!?


 俺は辺りを見回す、パンツを見るためには楓より後ろの席である必要がある。

 よって犯人は楓より後ろの席だと推測できる。


 索敵範囲を絞ったおかげか犯人を容易に特定することが出来た。

 そいつは血走った目を瞬きすらさせずに楓を睨みつけ、傍から見てもわかるほど力んでいた。


 下手人の名前は藻矢士モヤシツヨシ

 弱そうな名字に強そうな名前という、なんともアンバランスなフルネームのそいつとはクラスメイト故に話したことぐらいはあるが、そこまで親しい間柄ではない。

 自分だけが超能力が使えるとは思っていなかったが、まさかこんな近くに使えるやつがいるとは……

 これを期に仲良くなるのも良いかもしれない。

 だが、その前にやらなくちゃいけないことがある。


 楓のスカートをめくるのは俺だ! 貴様にやらせはせん!!


 いつもはスカートを浮かすことにしか使わなかった能力を初めてスカートを押さえることに使う。

 突然に謎の抵抗が発生したことに驚いた様子の藻矢士が辺りを見回す、やつ自身も自分の他に超能力が使えるやつが居たことに気付いたようだ。


 そして藻矢士と目が合う。

 俺はジェスチャーで屋上に来いと伝えたところ、藻矢士は頷いた。

 伝わったようだ。

 さて、なんと言って止めさせようか……そして超能力者同士仲良くする事は出来るだろうか。


 ・


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「まさか、坊井も超能力者とは……世間って意外と狭いんだな」

「俺も驚いたよ」


 昼休みの屋上で藻矢士と対峙した俺だが、なんとも和やかな空気でちょっと拍子抜けしてしまった。

 藻矢士にも俺にも交戦の意思はない、このまま平和的に行きたいが俺には確認しないといけないことがある。


「なぜ楓のスカートをめくろうとしたんだ?」


 俺の問に藻矢士は答える


「この能力に気づいてから、最初は絶望したよ。だってすごく疲れて動かせるのが軽い物だけなんてあまり使いみちがないからさ……だけど動かしたその先に得るものが労力に見合えば良いことに気付いたんだ……そうつまりはスカートさ」


 ヤバい……全く同じ思考回路だ。

 だから男子高校生が超能力を持てばエロいことに使おうとするって言ったんだ。

 しかし傍から聞くとなんとアホで変態的な思考回路だろろうか。


「これまで99人の女性のスカートをこの能力でめくってきた、100人記念でクラス1の美少女である立川さんにのスカートをめくることにしたのさ」


 楓は、俺とはアホみたいな会話しかしないが、普段はとても外面が良い、そして顔の作りも幼馴染の贔屓目で見ても可愛いから、そりゃまぁ大層おモテになる。

 故に楓と幼馴染の俺はやっかみを受けることが多いが、その分優越感に浸れるので俺的には悪くはない気分なのだ。


 そして、藻矢士の言い分もわからなくはない。

 俺も楓のスカートをめくろうとしているしな……

 だが、なんか面白くない。


 俺自身、明確に楓に恋愛感情があるわけではないが、なんか面白くないのだ。

 独占欲だろうか? こいつには楓のパンツを見せたくはない。


「藻矢士よ……気持ちはわかるがやらせはせん! 楓のパンツは俺が守る!」

「ふふっ……面白い。いいだろう。幸い午後の事業でも何度かチャンスはある。俺は仕掛けに行くぞ」


 確かに藻矢士の言う通りだ。

 午後の事業は現文と英語。

 どちらの先生もベタに、日付と同じ出席番号の生徒を朗読の指名にするタイプの先生だ。

 今日の日付的にも楓が指名されることは間違いない。


「ああ、受けて立とうではないか。」


 自分の事は完全に棚に上げているがその事は気づかないようにしよう。

 こうして俺と藻矢士による超能力バトルが始まったのだ。

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