第9話 修行の成果。

「……これが、俺が剣を振るう理由です」


ソウイチロウさんは、俺の話を黙って聞いていた。

数分考え込んで、口を開く。


「それで、お前はその魔人討伐のために復讐の刃を握るのか?」


その質問に、俺は首を振る。


「いえ、母さんを殺した魔人が憎くない……と言ったら嘘になります。

ですが、本当に許せなかったのは、自分です」


もし俺が強いスキルを持っていたら。

もっと強い意志を持っていたら。

あの時逃げずに戦っていたら。


考えたらきりがなかった。


無意識に、拳を強く握りしめた。


「だから、もう大切な人を奪われたくない。失いたくない」

「……それが、お前が刃を振るう理由か」

「はい。俺は大切な人たちを守るために、刃を振るいます」


俺のその言葉に、ソウイチロウさんは笑みを浮かべ立ち上がる。


「ならば強くなってみせろ。大切なものを守るために」

「はい……!」



それから、技の稽古が始まった。

ソウイチロウさんから習った事をやって、失敗して、考えて、昇華させる毎日。


そして、2年の歳月が流れた。





***





「準備はできたか?」

「はい。大丈夫です」


懐かしいもので、家を出て3年の月日が流れた。

俺はすっかり身長も伸び、18歳になった。


腰に木刀を携えて、とある場所に向かう。


「着いたぞ」


やってきたのは、ソウイチロウさんと最初に出会ったミレーヌの街のダンジョン、第15層。


「さぁ、修行の成果を見せる時だ」


ソウイチロウさんがそう呟き、目の前に現れたのはーーーー。



「ガァァァァァァ!!!」



オーガだ。


俺を視界に捉たオーガは瞬時に間合いを詰めようとする。


あの頃は、オーガの動きを目で捉えるのが限界だった。

けれど今は観察する余裕さえある。


俺は木刀一本でオーガの渾身の一撃を受け止めた。


"あり得ない"


そう言いたげな表情をしたオーガは後ろへ下り、間合いを取る。

避けられた事が悔しいのか「グルルル」と喉を鳴らしていた。


そんなオーガを他所に、俺は四肢に取り付けられた重りを取り外す。


その重りを地面に投げ捨てると地面が抉れた。


……あれ? これ何キロつけてたんだっけ?


ソウイチロウさんがすぐ重さを増すもんだから忘れてしまった。うん、知らない方がいいな。


3年ぶりに重りを外した身体はまるで宙に浮いているような感覚だった。


「ガァァァァァァ!!!」


興奮したオーガが再び間合いを詰め棍棒を振り下ろす。

しかし、その攻撃は俺が半歩ズレたことによって外れた。


しまった、体が軽過ぎて半歩も避けてしまった。


次に来るであろうオーガの攻撃も、行動も、手に取るようにわかる。


俺は自身の成長を噛みしめるように木刀を握り、一閃。



「華の型、《徒花あだばな》」



俺の放った木刀による居合の一閃は音を置き去りに、オーガの首を刎ねた。

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"落ちこぼれスキル"の俺が剣聖と呼ばれるまで。 けにお。 @kenio_

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