第7話 落ちこぼれスキルの真価。
それから俺は毎日山を走り続けた。
登っては走って、逃げて、避けて、隠れて。下りては走って、転んで、逃げて、逃げて。
いつのまにか、両手両足首についている重りのことも忘れ、一心不乱に走り続けた。
そして、2週間経った。
その日も同じように朝から山に登った。異変に気付いたのは、下山した時だった。
下山し、ソウイチロウさんの家に着いてもまだ日が暮れていなかったのだ。
「はっ……はっ……」
肩で息をしながら立ち尽くす。
沈みゆく西日を見て自分が確実に強くなっていることを実感した。
「よし、第1段階は合格だ」
ソウイチロウさんの声がして振り返る。
笑っていた。
「よく、頑張ったな」
ソウイチロウさんはそう言って俺の頭を撫でた。その言葉に、涙が溢れてきた。
何度も死にかけた。
何度も逃げ出したいと思った。
何度も、何度も、何度も。
「ありがとう……ございますっ……!」
その日の夕食はソウイチロウさん特製のスキヤキという鍋料理を振舞われた。
なんでも、ソウイチロウさんの故郷では祝い事があった際によく食べていた料理だとか。
鍋には色々な種類の野菜や白くて柔らかいまの(大豆の加工品らしい)、肉などが入っていてとても美味しかった。
夜、話を聞いた。
俺のスキルについての話だ。
「レオ、お前のスキルは落ちこぼれスキルなんかじゃない」
「え?」
その言葉に、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「そ、それってどういう……」
困惑したように尋ねると、ソウイチロウさんは俺のスキルについて語り始めた。
「お前のスキル《紅眼》について、お前は"ただ目が良くなるだけ"と思っているだろう?」
その問いかけに、俺は無言で頷く。
「けれど、本質はそうじゃない。"目が良いだけ"は唯一無二の武器になる。
目を鍛えることで、相手の動作をコンマ1秒早く判断できる。
筋肉の動きを見て、次にどう動いてどこを攻撃してくるか分かる。目には、それほどの力がある」
考えてみれば、その通りだ。
"落ちこぼれスキル"だから、とスキルを理由に自分の弱さから逃げる為の免罪符にしていた。
弱いのはスキルではなく、俺の意思だ。
「弱いのは、スキルではなく俺の意思だったんですね」
「自分の弱さを認めるのもまた強さだ。明日からもっと厳しくいくぞ」
「はい、よろしくお願いします」
その日はそう言葉を交わし、床に就いた。
***
次の日から、山登りに加えて素振りが追加された。
両手両足首につける重りも25キロから倍の50キロに増え、益々厳しい修行になった。
素振りになると、ソウイチロウさんはより一層厳しくなった。
「構えが違う!」
「腰を入れろ!」
「隙だらけだぞ!」
そう叱責しては鳩尾(みぞおち)に木刀を叩き込んでくる。これがマジで痛い。
けれど次第に身体が重りに慣れ、山登りは日没までに戻れるようになり、素振りはソウイチロウさんとの掛かり稽古に変わった。
掛かり稽古はソウイチロウさんに剣を当てるか俺がぶっ飛ばされて気絶したら終わりの鬼畜稽古だった。(殆ど気絶して終わりだった)
そして、ソウイチロウさんに修行をつけてもらい丁度一年が経った頃。
「はっ!」
「ぬぅっ!?」
「まだまだぁ!」
何度剣を避けられても降り続ける。
着地の瞬間、方向転換の瞬間、攻撃に移る瞬間。様々な隙を見つけては剣を振るった。
そしてついに。
「らぁっ!」
「ぬっ!?」
俺の刀から放たれた一閃はソウイチロウさんの服の端を切り裂いた。
「合格だ」
そう言って、ソウイチロウさんは木刀を収め、真剣を抜く。
「レオ、これからお前に"技"を教える」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます