第6話 修行開始。
次の日の明け方から始まったソウイチロウさんの特訓は鬼そのものだった。
まず手始めに。
「レオ、これを手足につけろ」
そう言って渡されたのは黒いリストバンドのようなもの。
「何ですかこれ……って、重っも!!」
受け取ると、一瞬でガクンと膝から崩れ落ちそうになる。
「一つあたり25キロある。これをつけてあの山の頂上まで走って戻ってこい。タイムリミットは24時間。明日のこの時間までだ」
そう言って、ソウイチロウさんが指差したのは目の前にそびえ立つ山脈。
山脈の頂上を見ると雪で真っ白に染まっていた。
その山脈を合計100キロの重りをつけて走れという課題に思わず呆然とした。
けれど、これも強くなる為。
「わかりまし……
「言い忘れていたが、この山には推定E〜Cランクの魔物がうじゃうじゃいる。くれぐれも死なぬようにな。それと、これは没収する」
そう言ってソウイチロウさんは俺の腰に下げた剣や皮の鎧、道具袋などを剥ぎ取る。
残ったのは服一枚だけだ。
…………は?
「これより先、魔物と遭遇しても魔物への攻撃を一切禁ずる。それでは行け」
つまり、ソウイチロウの修行内容はこうだ。
『100キロの重りをつけて魔物の棲む山の頂上まで走ってこい。ただし、魔物と戦うな』
………………はい?
理解が追いつかず、その場で佇んでいると、ソウイチロウさんから声をかけられる。
「どうした? 強くなりたいんだろ?」
その言葉で、我に帰る。
そうだ、俺は軽い気持ちで言ったんじゃない。大切な人を守る強さを得るために。
「行ってきます」
俺はそう言って山へと駆け出した。
***
「はっ……はっ……はっ……」
身体が重い。
当たり前だ。両手両足に25キロの重りがついているのだから。
山を登るだけでも何十倍、何百倍もの速さで体力が奪われる。
その上、いつ遭遇するかわからない魔物に対して常に緊張を張り巡らせていた。
クソっ……
胸の内で悪態を吐く。
過度な緊張と疲労で気が狂いそうだ。
それでも、俺は息を荒げながら前へ前へと足を進める。
ガサガサッ。
俺のスキル《紅目》で30メートル先、茂みの動きを捉えた。
急いで姿勢を落とし、茂みに隠れる。
「グルルル……」
現れたのはデザートパンサー。Cランク級のモンスターで、鋭い爪と牙で冒険者を切り裂く魔物だ。
鋭い牙、血走った眼光、口から垂れた涎。その全てが死を象徴していた。
俺は茂みの中で、必死に息を殺す。
なんせ"見つかる=死"に直結するからだ。
数分して、デザートパンサーは茂みの奥に消えていった。
「……っぷはっ……はぁ……はぁ……」
息を殺す時間がまるで永遠に感じた。
まるで生きた心地がしない。
くそったれが……!
だんだんムカついてきた俺は再び、山頂めがけて歩み出した。
やってやる! 絶対に……強くなってやる!
それから俺は走って、隠れて、逃げて、また走ってを繰り返し丁度ギリギリ24時間後に元の場所へ戻ることができた。
朝日に照らされながら、俺は覚束ない足取りでソウイチロウさんの元へ辿り着く。
「お疲れさん。ほれ、水だ」
そう言って、ソウイチロウは逃げ隠れし、土まみれになった俺に水筒を渡す。
「ぷはっ……生き返る」
俺はその水を一気に飲み干した。
流石にもう一歩も動けな……
「さ、もうワンセット頑張ろう」
悪魔過ぎるこの人……
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