第5話 初代勇者。
「初代……勇者……?」
にわかには信じがたい言葉に、思わず言葉を繰り返した。
なぜなら、この国に初代勇者が誕生したのは今からおよそ100年以上前のことだからだ。
誰もが知っている異界から来た勇者の魔王討伐の英雄譚。
そんな物語の主人公が今目の前にいる。誰が信じられるだろう。
「そんなバカな……」
つい、本音が漏れた。
「がははは! 信じられんのも無理はない。なんせ儂は今年で168歳になるからな!」
笑いながらとんでもないことを話す。
けれど、今の俺に勇者だとか、長齢だとか、そんな事はどうでもよかった。
「あのっ……!」
目の前で見た圧倒的な力に俺は無意識に拳を力強く握っていた。
「俺は、強くなれますか……」
目の前の老人にそう問うた。
「大切な人を、守れる強い人間になれますか」
これは心の叫びだった。
"落ちこぼれスキル"と呼ばれるスキルを授かり、無能、足手まとい、クズとバカにされ続けた10年間。
『お前は強くなれる』
そんな一言が欲しかった。
数秒のの沈黙を経て、ソウイチロウさんが口を開く。
「お前は弱い」
しかし、彼の口から放たれた言葉は期待する言葉とは反対の言葉だった。
俺は自然と視線を地面に落とした。
だけど、俺は……
「今はまだ……な」
その言葉に、俺は顔を上げ、彼を見た。
「今は……まだ?」
「言ったであろう。お主には見どころがある。だから、鍛えてやる。強くなりたくば、ついてこい」
願っても無い提案だった。
「はいっ……! お願いします!」
***
俺はミレーヌの街に戻り、オーガの件について報告、説明をしてソウイチロウさんに連れられミレーヌの街を出た。
ミリアさんは突然の別れに悲しんでいたが、またそのうち会えるだろう。
俺はミリアさんやお世話になった方々にお礼の言葉を告げてミレーヌの街を後にした。
そして今、俺はとある山……というか山脈の麓(ふもと)にきている。
そして、目の前には木造の小さな家がある。
「ここは?」
「ここは儂の家だ」
ここに来るまでに、驚くべきことが沢山あった。
まず移動術。
ソウイチロウさんは俺を抱えながらものすごいスピードで走っていた。
100キロは走ったのではないだろうか。とても168歳には見えない。
次に、攻撃だ。
走っている最中、モンスターに何度か遭遇した。
しかし、ソウイチロウは目の前の敵を一瞬で斬っていた。それも、剣を抜くのも見えない速さで。
改めて、勇者が化け物であることを実感した。
そして、今いるソウイチロウさんの家に着いたのは日が暮れた後だった。
「今日はもう遅い、明日から修行を始めるぞ」
「はい!」
俺はソウイチロウさんと鍋をつつきながら明日の話をする。
鍋はソウイチロウさん特製。これがまた美味い。キムチ鍋と言うらしい。
「泣き言言ったら帰らせるからな。覚悟しておくことだ」
「言いません」
これは俺が手にした最大の好機(チャンス)なんだ。離してたまるか。
キムチ鍋なる物を食べ終わった後は風呂に入り、床に就いた。
その際、ソウイチロウさんの故郷の話を聞いた。
それは、考えられないような世界の話で、ソウイチロウさんの話一つ一つに俺は興奮しながら聞いていた。
そして次の日から、地獄の特訓が始まった。
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