第4話 母の言葉。
「くそがっ! お前ら逃げ……」
叫ぼうと声をあげたスワンの頭が半分吹き飛び、血しぶきをあげた。
俺のスキル、《紅目》で一瞬目視できるかできないかのスピード。
まさに、怪物だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ! スワンンンンンンン!!!」
「う、うわぁぁぁ!!!!」
他の仲間たちは叫び、嘆き、逃げ出そうとするが、オーガの圧倒的な速さの攻撃に為す術なく、無情にも殺されていく。
オーガの持つ棍棒にはパーティメンバー五人の臓物がこびりついていた。
そんな惨劇の中、俺は一人呆然と立ち尽くす。
動いたら死ぬ。動かなくても死ぬ。
生き残る可能性としてはオーガがこのまま去ってるれることだが、それも虚しく、オーガは俺を見てニタリと笑みを浮かべた。
俺は後退りをして石に躓き尻餅をつく。
その瞬間、俺の目の前をオーガの棍棒が振り抜けた。
ドゴォン、という音を立てて地面が
「はっ……はっ……はっ……」
自然と息が荒くなる。
やばい、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!
怖い、死ぬ、誰か、助けて、神様。
ゴチャゴチャした感情の中に芽生える一つの感情。
"負けてたまるか"
5歳の洗礼で"落ちこぼれスキル"を授かった日から、俺は周りからいつも言われていた。
「貴族家の恥さらし」
「落ちこぼれ」
「人生終了」
俺は、強くなりたかった。
家族を、みんなを守れる強い人間に、俺はなりたかった。
生前の母さんがよく言っていた言葉がある。
『どんなに辛く、苦しい事があったとしても意思だけは、負けちゃダメよ。強い
その言葉に、意思が、身体が、本能が奮い立つ。
俺はオーガに剣を構え、叫んだ。
「負けてたまるかぁぁぁぁ!!!」
無謀、浅はか、短絡的。
誰もがそう思うだろう。自分だって思う。
けれど、所詮落ちこぼれスキルたがら、Fランクだからと自分に言い訳するのはもうやめた。
今日、俺は弱い自分を捨てた。
ーーーーーー来る!
一瞬の刹那。
俺はこの目で、オーガの初動を捉える。
頭で考えていては間に合わない。
考えるな、身体で感じろ。
どこに棍棒を振り下ろす。
そして、何処にこの刃を振るえばいい。
コンマ1秒も立たない刹那の攻防。
俺はオーガの全身の筋肉の動きを見て、半歩だけ、右にズレた。
そして、オーガの棍棒が俺の半歩となりに振り下ろされる。
ドゴォン、という大きな音と共に地面は抉れ、砂煙を立てる。
今、この箇所、このタイミングでーー。
俺は流れるような動作でオーガの心臓に剣を突き出したーーーーが。
ガキィッン……
俺の放った一撃は無情にもオーガの固く覆われた皮膚に弾かれ、剣は折れた。
ニヤリ、とオーガが笑ったような気がした。
クソっ……
オーガは再び棍棒を振り下ろす。
決めに言った攻撃が仇となり、避けるのにはもう遅かった。
"死"
その感覚だけが、俺の身に宿った。
「諦めるのはまだ早いぞ小僧」
突然そんな声がして、俺はとっさに振り向いた。
けれど、そこには誰もいない。
走馬灯か……?
しかし、振り返りるとそこには切り刻まれ、
なっ……今の一瞬で、殺したのか……?
目の前に立っていたのは一人の老人。
甚平を羽織り、腰には刀……というより木刀が携えられていた。
まさか、これで斬ったのか?
「小僧の戦いをしばし見ておった。まだまだ荒削りじゃが、見所がある」
先ほどから淡々と話すこの老人は何処と無く、不思議な空気を放っていた。
「あの、貴方は……」
俺が恐る恐る尋ねると、老人から帰ってきた言葉は驚くべきものだった。
「儂はタチバナ・ソウイチロウ。この国の初代勇者だ」
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