第4話 母の言葉。

「くそがっ! お前ら逃げ……」


叫ぼうと声をあげたスワンの頭が半分吹き飛び、血しぶきをあげた。


俺のスキル、《紅目》で一瞬目視できるかできないかのスピード。

まさに、怪物だった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ! スワンンンンンンン!!!」

「う、うわぁぁぁ!!!!」


他の仲間たちは叫び、嘆き、逃げ出そうとするが、オーガの圧倒的な速さの攻撃に為す術なく、無情にも殺されていく。


オーガの持つ棍棒にはパーティメンバー五人の臓物がこびりついていた。


そんな惨劇の中、俺は一人呆然と立ち尽くす。


動いたら死ぬ。動かなくても死ぬ。

生き残る可能性としてはオーガがこのまま去ってるれることだが、それも虚しく、オーガは俺を見てニタリと笑みを浮かべた。


俺は後退りをして石に躓き尻餅をつく。

その瞬間、俺の目の前をオーガの棍棒が振り抜けた。


ドゴォン、という音を立てて地面がえぐれる。当たっていたら即死の一撃だ。


「はっ……はっ……はっ……」


自然と息が荒くなる。


やばい、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!


よわい15にして、初めて色濃く感じる死の恐怖。

怖い、死ぬ、誰か、助けて、神様。


ゴチャゴチャした感情の中に芽生える一つの感情。


"負けてたまるか"


5歳の洗礼で"落ちこぼれスキル"を授かった日から、俺は周りからいつも言われていた。


「貴族家の恥さらし」

「落ちこぼれ」

「人生終了」


俺は、強くなりたかった。

家族を、みんなを守れる強い人間に、俺はなりたかった。


生前の母さんがよく言っていた言葉がある。



『どんなに辛く、苦しい事があったとしても意思だけは、負けちゃダメよ。強い意思こころさえあれば、なんだってできる、何にだってなれるんだからーー』



その言葉に、意思が、身体が、本能が奮い立つ。

俺はオーガに剣を構え、叫んだ。


「負けてたまるかぁぁぁぁ!!!」


無謀、浅はか、短絡的。

誰もがそう思うだろう。自分だって思う。


けれど、所詮落ちこぼれスキルたがら、Fランクだからと自分に言い訳するのはもうやめた。


今日、俺は弱い自分を捨てた。



ーーーーーー来る!


一瞬の刹那。

俺はこの目で、オーガの初動を捉える。


頭で考えていては間に合わない。

考えるな、身体で感じろ。


どこに棍棒を振り下ろす。


そして、何処にこの刃を振るえばいい。


コンマ1秒も立たない刹那の攻防。


俺はオーガの全身の筋肉の動きを見て、半歩だけ、右にズレた。


そして、オーガの棍棒が俺の半歩となりに振り下ろされる。


ドゴォン、という大きな音と共に地面は抉れ、砂煙を立てる。


今、この箇所、このタイミングでーー。


俺は流れるような動作でオーガの心臓に剣を突き出したーーーーが。


ガキィッン……


俺の放った一撃は無情にもオーガの固く覆われた皮膚に弾かれ、剣は折れた。


ニヤリ、とオーガが笑ったような気がした。


クソっ……


オーガは再び棍棒を振り下ろす。

決めに言った攻撃が仇となり、避けるのにはもう遅かった。


"死"


その感覚だけが、俺の身に宿った。



「諦めるのはまだ早いぞ小僧」



突然そんな声がして、俺はとっさに振り向いた。

けれど、そこには誰もいない。


走馬灯か……?


しかし、振り返りるとそこには切り刻まれ、むくろとなったオーガがいた。


なっ……今の一瞬で、殺したのか……?


目の前に立っていたのは一人の老人。

甚平を羽織り、腰には刀……というより木刀が携えられていた。


まさか、これで斬ったのか?


「小僧の戦いをしばし見ておった。まだまだ荒削りじゃが、見所がある」


先ほどから淡々と話すこの老人は何処と無く、不思議な空気を放っていた。


「あの、貴方は……」


俺が恐る恐る尋ねると、老人から帰ってきた言葉は驚くべきものだった。



「儂はタチバナ・ソウイチロウ。この国の初代勇者だ」

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