Cafeこもれびマスターの物語

第30話 ~「悲しみをこえて」

 Cafeこもれび

 マスターのお話(1)



 その頃の僕は生きることの意味さえ分からなくなっていた、高校生の時にある女の子と恋をした、それは青春にありがちな淡い恋だったけど、僕らは真剣にお互いを思いお互いを大切にしていた。


 二人は同じ大学に入り一緒に過ごすことが当たり前のことだった。

 それは彼女が病に侵されるまで…


 ある日彼女は僕の前で倒れた、脳内出血だった、緊急手術の甲斐も無く3日後に天国に召された、まるで夢の中にいるような気持ちのまま数ヶ月が過ぎた。生きていく自信も、死んでいく勇気さえなく日々をやり過ごすだけ。


 彼女は林檎が好きだった

 赤い林檎をナイフで半分に切って皮付きのまま食べた。

 半分は彼女がそして残りの半分を僕が食べる。

 サクリと音を立てながら口に頬張る彼女が愛おしかった。


これから僕はどうしたらいいのだろうか?


半分の林檎は誰に渡せばいいのだろうか。そして誰に貰えばいいのだろう。


 それからの僕はバイトに明け暮れた、1人になると死にたくなるから、近くに誰かがいないと自分を見失ってしまうから。


 大学は1年を残して退学した、もちろん両親は反対したけど、最終的には許してくれた。


 バイトで貯めたお金を手に僕は旅に出た。


 訪れたのはアメリカ、ヒッチハイクで旅をするのは不安で寂しい。

 でも知らない異国で怖いのは確かなのに、死を連れて旅をしている僕には怖いものなんて何ひとつなかった。



 この国でたくさんの人に出会った、ジョージア州の小さな町で出会った老婦人には暖かい食事とふかふかのベッドそして優しい言葉をもらった。


 その言葉はそれからの僕の道しるべとなった。

「When you come to a roadblock take a detour」

 行く手をふさがれたらまわり道でいけばいいのよ


 この国には夢と希望が満ち溢れていた。僕には眩しすぎるほどに、でもこの言葉で少しづつ生きていくことに積極的になれたのだと思う。


 それから、ヨーロッパに渡り運命の人に出逢うことになるのだった。

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満月の夜とオムライス あいる @chiaki_1116

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