第23話~恥ずかしがり屋の満月のもとで~
思い描いていた人生なんて叶うわけもなくて、でもそんな人生だって愛おしくてたまらない瞬間に出会える
ちっぽけな人間だけどだれかの光になれるのかもしれない、たとえそれが儚いものだとしても。
そしてわたしがあなたの光のなれるのなら、あなたもわたしの光となれる。
柔らかな光で包みあって2人は溶け合うことができるのかもしれない。
今夜の満月は恥ずかしがり屋、雲に隠れて月光はこの地球には届かない、でも確かにそこに存在しているのだ、いつもと同じように…
◇◇◇
蓮君はすでにその場所に待っていた。
踏み切りの横のガードレールに腰掛けて私の姿を見つけると手を振った。
「こんばんわ」
私は声を掛けた
「咲良さんじゃなくて真理亜ちゃんこんばんわ」
「満月見えませんね」
「ほんとだね、ちょっと残念だね」
少しの沈黙のあと
「あの日救われたのは私じゃないかと思ってるの、確かに自殺しようとしてたのは蓮君で、それをを止めたのは私なんだけど、その時に一緒に私は蓮君に止められたのだと思う…生きていいんだと…生きなきゃダメなんだと」
「バカなことをしようとしてたのは、俺の方だよ」
「うん、でもあの時あの瞬間に私も死にたい気持ちと別れることが出来たのだと思う、そしてそれは蓮君の存在があったから、そして私たちは生きることを選択した」
遮断機が降りて特急電車は走る、そして2人の声を遮る、あの夜と同じ時間に…
「小説を書くことで、自分の気持ちに向き合うなんて、最低なことだとわかったっていたけど、広夢は…俺の親友は自殺しようとする俺のことを認めてはくれないと思う」
「私は思うの、蓮君はあのサイトにたくさん存在する死にたいと思う人たちも救いたいと思っていたのじゃないかと…そんな思いであの日この場所に来たのじゃない?」
「確かにあのサイトには病気やトランスジェンダーや色々な事に悩んでる人達もいて、みんな苦しんでいることを知った、目を背けたくなる悲しい詩なんかを読むと俺自身も辛くなった、そして電車が近付いて来た瞬間は、ほんとに死のうとしていたのかもしれない、そこに君が現れた…まさにマリアさまの様にね…そこで俺は救われた」
2人は見つめあった、雲に隠れていた満月はいつの間にか現れて静かにふたりを照らし始めた。
蓮君はぽつりとつぶやいた
「運命なのだと思う、あの日出会ったことも、じつは以前から出会っていた事さえも…」
「その運命はこれからも、2人を繋いでくれるのかなぁ」
「もちろんそうだと思うよ…そばにいて欲しいんだ」
2人を照らす満月はその姿を現して、この世界をすべてを優しく照らしている。
「オムライス食べたいね」
「うん、そしてマスターに感謝しなきゃ」
「えっ?どうして?」
「ふふっ…とりあえずこもれびに行こう」
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