第20話~真理亜の告白~


 真理亜はマスターには話せると思った。

 あの満月の夜に出会った蓮とのことを。


 こもれびは閉店時間になっていた。

 店先の灯を消してマスターは新しいコーヒーを入れてくれた。


 あの日、蓮と座った窓際の席に向かいあって座った。

 窓の外を見ると、半分の月は今まさに薄い雲の後ろに隠れようとしていた。

残りの半分を探しているかのように。


「辛かったら話さなくてもいいんだよ」

 マスターは優しくそう告げた。


 真理亜はあの日、自殺しようとした蓮を止めたこと、本当は自分も命を絶とうとしてその場所にいたこと、そして蓮が死にたいと思った理由のこと。

 マスターは黙ってじっと聞いてくれた。

 涙が止まらなくなっていた真理亜にそっとティッシュの箱を渡しマスターは静かに話し始めた


「よかった、2人とも生きていてくれて本当に良かった、ありがとう!あの満月の夜に初めて来てくれた時に思ったんだ」

 

マスターはあの日のことを事細かに覚えていた。

「最初はね2人ともなんだか違う世界から来たみたいにふわふわしてるとおもった、その理由はそういうことだったんだね、参考にはならないだろうけど、僕が放浪の旅を始めたわけを話すからね聞いてくれる?」


 髭のマスターの名前は「たなはし さとし」だと聞いたのは初めてだった。


「その頃の僕は大学を卒業して、本来なら就職するはずなのに、逃げ出したんだよそして自由に生きることを選択した、親も先生も裏切って…逃げ出したんだ…それは死に場所を探すための旅だったかもしれない」


「そしてフランスへ?」

「いや、最初はアメリカ…半年位放浪してヨーロッパに来た」

「アメリカの方が自由って感じがしますよね…なのに」

「…なのに…そうだね…なのにフランス」と笑った。


 ヨーロッパに来て歴史を感じる街並みや建造物に魅了されたそうだ、パリは観光地で日本からも他国からも旅行客が訪れる。

 英語が少しできるおかげで、そのカフェでギャルソン(ウェイター)の仕事ができるようになっていた。


 そこで運命の人に巡りあった、アルザス地方にあるストラスブール大学に日本から留学生とし来ていた「マキ」だった。

2人は出会ってすぐに恋に落ちた、マキはパリへは休暇で来ていたので。休みの度にマキのいるストラスブールに行って2人は愛を育んだ。


 そして留学の期限が終わりマキが帰国する時に一緒に日本に帰って来た。


それから1年後に結ばれた。

「そしてこの古い日本家屋でこの店を始めたってわけさ…だって古いから家賃が格安で、改装し放題だからさ2人でこの店を始めた」


「やっぱり素敵な出会いだったんですね」


「そりゃ最高だったよ、一目惚れした人が僕の事を好きになってくれたんだから」

 元々病弱だったマキは持病が悪化して15年後に他界した、可愛い娘と愛する夫を残して…



「蓮くんは1人でここに来ていつも本を読んでいたよ、いつも真理亜ちゃんが座ってるあのカウンターの席で…たまに言葉を交わすこともあったけど…」

 医学部に通う学生で前途洋洋と思われるのに、何故か儚さを感じていたとマスターは話した。


「そんな理由があったんだね…」

次第に店を訪れることはなくなり、あの満月の日に久しぶりに店に姿を見せた。

1人ではなくて2人で…


 真理亜はマスターに話したおかげで少しだけ心が軽やかになった気がした。

マスターは真理亜の目を見ながらこう言った。


「そして…真理亜ちゃんは蓮くんに恋をしたんだね」

 真理亜はうなづいた。

「そりゃ最高だね!最高じゃないか」

 マスターそういって笑った。




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