添う四季
暖かくなって雪解け水が山のてっぺんからさらさらと流れ落ちてくるように、それがまったくの自然の摂理であるという風に、妹が死んだ。十八歳だった。名をハルという。
妹は私によく懐いていた。ハル、と呼べば嬉しそうに駆け寄ってきて、よく同じ寝床で眠った。散歩が大好きな子で、日課のそれを楽しみにしていた。ハルと過ごした日々はどこを思い返しても暖色に満ちていて、さむくつめたかったはずの雨の日のことでさえ、私は暖炉の傍でぬくぬくと微睡んでいたような錯覚に包まれた。実際には私は薪の燃える暖炉なんて己の目に映したこともなく、それは本当にただの私の錯覚であるのだけれど。
もう犬は飼わないわ、とハルが燃える煙を眺めながら呟いた私のことを、動物霊園の職員がビジネスライクな痛ましさを湛えて見つめていた。けれども私は違うことを考えていた。私が考えていたのはハルと過ごしたぬくもりの喪失と空虚への慰みではなく、次に迎える新しい命についてだった。ハルの兄弟分として迎える子は誰がいいだろう。アキ、フユ、ナツ? 蛇、梟、熱帯魚? みんなそれぞれ寿命が異なるから、慎重に選ばなくてはならない。
死んだ季節を悼みながら次の季節を育んで、そうしてよっつ分のきょうだいが私の腕の中で命を終えたとき、そこが私の終着点でもあると思うのだ。
私の名をコヨミという。
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